2011 Fiscal Year Annual Research Report
高強度超短パルステラヘルツ光に対するグラフェンの非線形光学応答
Publicly Offered Research
Project Area | Optical science of dynamically correlated electrons in semiconductors |
Project/Area Number |
23104708
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 顕一 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特任准教授 (70344025)
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Keywords | 応用光学・量子光工学 / 物性理論 |
Research Abstract |
グラフェンの光学応答の理論研究は、従来、フロケ解析などスペクトル領域のものがほとんどである。しかし、スペクトル幅の広い超短パルスに対する非線形応答をスペクトル領域で研究するのはあまり適切とは言えない。アト秒科学や高強度場現象の分野で主流であるように時間領域でモデリングするのが自然であり、起こっている過程のイメージもつかみやすい。そこで、本研究では、グラフェンに高強度超短パルステラヘルツ光が入射した場合の光電流の非線形応答や高調波発生を、時間領域で定式化し、理論的に研究している。 先行研究では、テラヘルツ光が垂直入射した場合について、k空間のディラック点近傍でよい近似となっているディラックフェルミオン描像での定式化を行った。平成23年度は、これを発展させ、ディラック点から離れたところでも成り立つ強結合ハミルトニアンの場合での定式化と、さらに斜入射の場合の定式化に成功した。垂直入射の場合には、バンド間のポピュレーションの差とバンド間コヒーレンスに関する、グラフェンブロッホ方程式の形に簡略化できるが、斜入射の場合にはそれができない。本研究で行った定式化の結果として顕著なのは、得られた運動方程式が光学行列要素をあらわには含んでおらず、バンド間遷移は、k空間における幾何学的な角度の時間変化に支配されているという点である。また、本研究で行った定式化を用いれば、電子がk空間においてディラック点を囲む経路を通って元の位置に戻るときに獲得する位相についても一般的な議論をすることができる。 また、本研究の成果である定式化を用いて、シングルサイクルに近いテラヘルツパルスが入射した際にグラフェン中で発生する電流の計算を行い、バンド間遷移が起こるために、比較的大きな、パルス後も残る直流電流が発生することを見出した。これは超短パルスに特有の新しい現象である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強結合ハミルトニアンの場合と、斜入射の場合についての、超短パルステラヘルツ光に対するグラフェンの光学応答の定式化に成功した。単電子が、ディラック点を囲むk空間の経路を移動して元の位置に戻るときに獲得する位相を、バンド間遷移とバンド内動的過程の観点から明らかにした。さらに、マクロ応答の計算を行い、直流電流生成を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、シングルサイクルパルスによる直流電離生成の特徴とメカニズムを明らかにする。次に、グラフェン電子のバレー間ダイナミクスや、インターバレープラズモンについて、研究する。
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