2011 Fiscal Year Annual Research Report
新触媒活性種創製に基づくアミドの触媒的水素化の開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Molecule Activation Directed toward Straightforward Synthesis |
Project/Area Number |
23105518
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
斎藤 進 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (90273268)
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Keywords | 分子触媒反応 / 新触媒活性種 / 不活性アミド / 水素化 / 環境負荷低減 / 遷移金属触媒 / 分子性の触媒表面 |
Research Abstract |
不活性アミドの触媒的水素化は野依型Ru錯体[RuCl_2(N,N)(P,P)]ではいまのところ実現できていない。錯体の構造的安定性(頑健性)に欠けることがひとつの要因である。当該目標を実現する「分子性の触媒表面」の創成にあたりまず、新しいRu錯体の分子設計に取り組んだ。均一系触媒では不得手とする「熱的頑健性」をRu錯体に構築するために、Ru殻への配位能が高いと思われるアルキルホスフィンとピリジンからなる(P,N)型二座配位子を選んだ。この二座配位子を二つ配位させて四座配位とし、残りの二座を塩素で占めれば、配位飽和な触媒前駆体錯体[RuCl_2(P,N)_2]が形成される。これらの設計指針に加えさらに「速度論的頑健性」をもたらすために、「立体的かさ高さ」,を(P,N)配位子に導入した。Ru殻への不要な相互作用や配位をできうる限り防ぐためである。水素分子や水素原子以外の官能基や元素、例えば水素化生成物であるアルコールやアミン、または水やアンモニアの酸素や窒素の非共有電子対(n電子)がRu殻に触れれば、これらの配位は、触媒の失活(生成物阻害)やRu錯体構造の分解を優位にもたらすであろう。同時に「立体的かさ高さ」の導入は別の大きな意味をもつ。すなわち水素以外の官能基や元素がRu殻に触れにくくなれば、Ru殻が水素分子を選択的に(速度論的に有利に)取り込める。水素分子の取り込みによる金属ヒドリド錯体形成過程が、律速段階となっている触媒系は数多く存在する。均一系、不均一系を問わずこれまでの水素化触媒の設計では、これら複数の観点は必ずしも考慮されていない。そこで触媒前駆体であるRu錯体の合成に続き、実際の水素化を担う触媒活性種形成のために、様々な添加剤の効果を調べた。Ru錯体に様々なアルカリ金属塩を添加し水素化を検討したところ、それぞれの場合において異なる触媒活性を示した。最も良好な結果を与えたのは比較的かさ高いアルカリ金属塩を加えた場合である。反応温度、水素圧、酸性・塩基性の調節等も行った。その結果、様々な不活性アミドの触媒的水素化がより中性pH条件下でも可能となってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果はJSTからの資金援助につながり、PCT出願として2012年の始めに特許出願できたどのような立体的および電子的な構造を遷移金属触媒がもてば、アミドの水素化に有効な触媒となりうるかを初期的とはいえほぼ把握できた点は大きい。触媒活性種の形成段階と実際のアミドの水素化段階とでは必要な反応条件が異なることも証明できた。今後は、より省エネルギー条件下での水素化が可能になることが示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で得られた新概念「分子性の触媒表面」とは、均一系触媒と不均一系触媒のインターフェースを提供するものであり、不均一系触媒が得意とする「剛健性と高反応性」、そして均一系触媒が得意とする「柔軟性と高選択性」の両者を満たすような触媒への実現にむけて更なる検討が必要である。そのためには、「剛健性と高反応性」を満たすようなより精密な分子触媒の設計と合成が必要であるが、そのための具体的な方策もほぼ想定できている。今後はこれまでの知見から得られた情報と解釈を基盤とし、新たな分子構造をもつ触媒前駆体(遷移金属錯体)を用いて、より高活性な水素化触媒反応の実現に向けて検討を続ける。
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