2011 Fiscal Year Annual Research Report
カイラル対称性の破れにともなう物理の定量評価
Publicly Offered Research
Project Area | Research on the Emergence of Hierarchical Structure of Matter by Bridging Particle, Nuclear and Astrophysics in Computational Science |
Project/Area Number |
23105710
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
深谷 英則 大阪大学, 理学研究科, 助教 (70435676)
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Keywords | 格子ゲージ理論 / カイラル摂動論 |
Research Abstract |
物の重さ、質量とは何か? 1961年の南部陽一郎博士の研究により、物質の質量とは、それを構成する素粒子の持つ対称性が自発的に破れることによって生じることが示された。なかでもカイラル対称性の破れは、われわれの身近な物質の構成要素である原子の90%以上もの質量を生成していると考えられ、素粒子論における最も重要な対称性の1つである。しかし、そのダイナミクスは、基礎理論である量子色力学(QCD)が強結合で解析が困難なことから、現代でもなお難しい課題である。 本研究は、近年ようやく実現されたカイラル対称性を厳密に保つ格子QCD数値計算を用いて、カイラル対称性の破れにともなう物理の定量評価を行うことを目的とする。この目標を達成するためには、JLQCD共同研究における大規模格子QCD数値計算と、カイラル摂動論による解析計算の両者を相補的に用いて、クォーク質量ゼロ付近、および有限体積補正を正確にコントロールする必要がある。 本年度の研究成果は、パイ中間子の相関関数のふるまいを解析的に明らかにし、パイ中間子質量およびその崩壊定数を決定できたことである。筑波大の青木慎也氏との共同研究[Phys.Rev.D84:014501,2011]により、パイ中間子が有限体積において双曲線関数に定数を加えたシンプルな関数系で記述できることが示された。これは、これまでに知られていたカイラル摂動論のε展開による結果とp展開による異なる関数の両者を包含し、しかも滑らかに内挿している。さらに、この式を用いて、パイ中間子の質量および崩壊定数をJLQCD共同研究の大規模数値計算結果から正確に抽出することに成功した。この数値計算の結果については国際学会"29th International Symposium on Lattice Field Theory"にて発表、現在本論文の発表を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パイ中間子の2点関数については、予想外にシンプルな関数系で正確な有限体積効果、クォーク質量の効果を記述できることが明らかになった。さらに、3点関数についても(未発表であるが)有限体積の効果に一番寄与の大きいゼロ運動量モードの寄与をほとんど相殺可能であることがわかった。本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、2点関数について格子QCD数値計算の結果を論文にまとめ、発表し、3点関数の解析を24年の終わりころをメドに遂行させる。
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