Research Abstract |
水面上に作製した展開単分子膜(Langmuir膜;L膜)の分子集合構造は,疎水基間の結晶化力や親水基部位の水和・金属塩形成などの力のバランスによって決まることは,広く認識されている.しかし,これらのパラメーターの相互作用の機構は十分にわかっていない.すなわち,L膜を構成する有機分子から金属イオンまでを横断的に解析する試みが少なく,互いの関連の理解には至っていない.本研究では,新たなパラメーターとしてL膜の作製方法を加えた.L膜の作製には,通常よく用いられる圧縮バリアを用いたLangmuir法(圧縮法)以外に,分子断面積を考慮した量のモノマー溶液を,膜面積を固定した水面に展開する方式(非圧縮法)がある.これまで,経験的に非圧縮法よりも圧縮法の方がより偏りが少なく,かつ熱力学的に安定した構造に到達できると考えられてきた. 以前の研究で,ステアリン酸亜鉛のL膜を非圧縮法で調整し,全反射XAFSスペクトルを測定するとX州ES領域に明瞭な経時変化が現れることが報告されているが,その理由はわかっていなかった.そこで今回,圧縮法との比較を加え,さらに有機薄膜部位を偏光変調赤外分光法(PM-IRRAS)で解析することで,経時的なL膜のダイナミクスを,有機薄膜部位とイオン部位の両面から議論した.また,イオンの配位構造解析には,偏光XAFS測定を用いた. PM-IRRAS法によりステアリン酸と亜鉛イオンが2:1ではない,非化学量論的なイオン結合種の存在を初めてとらえることに成功した.偏光XAFS測定から,イオンの配位結合様式は4配位型から5配位型に経時的に変化することがわかった.また,非圧縮型のL膜が圧縮型よりも安定な配位構造をとりうることを初めて見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
負のGibbs吸着を示すイオンを水面で濃縮する手法として,水面上の単分子膜に注目し,膜分子の親水基付近での溶媒和を含めた分子凝集構造を調べるために,イオンの電子構造を知るためにX線吸収微細構造(XAFS)分光法を,単分子膜の構造を知るために偏光変調赤外反射吸収分光法(PM-IRRAS)を用いて研究を行った.水面上の単分子膜の測定には,全反射条件での漁蛍光分光法の実験技術が必要で,世界的にも実施できるグループは3グループしかない.しかし,幸い東工大の原田らの協力を得られたおかげで,予定をはるかに上回るペースで実験が進み,予定より半年早いペースで研究が進んだ.このため,当初予定した内容の大半が片付いた.
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Strategy for Future Research Activity |
ソフトマターの界面吸着を,界面の親水性の程度をパラメーターとして議論する.金は,理論的には高い表面自由エネルギーを反映して,極めて高度な親水性を発揮することが期待されるが,実際の実験では疎水性的な性質を示すことが多い.これは,1980年ころのいくつもの実験によって,表面のコンタミ吸着が親水性を大幅に低下させることが示され,決着がついているものの,ソフトマターとの相互作用という視点からの議論はほとんどない.そこで,今後は,金の疎水性の程度を乾燥および大気化条件で制御し,そこでのソフトマターの吸着配向の変化を,ダイナミクスとして観測することを目指す.
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