2011 Fiscal Year Annual Research Report
高分子ソフト界面における分子鎖熱運動性を利用する細胞機能制御
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Soft-Interface Science |
Project/Area Number |
23106716
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松野 寿生 九州大学, 大学院・工学研究院, 准教授 (50376696)
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Keywords | 細胞接着 / 高分子表面 / 力学特性 / 足場材料 / ポリスチレン / 分子鎖熱運動性 / 線維芽細胞 / 細胞骨格形成 |
Research Abstract |
細胞など生体成分との接触下において利用されるバイオマテリアルの開発には、材料/生体成分界面の物性評価に基づく設計指針が必要とされている。本年度は、高分子試料として、種々の分子量の単分散ポリスチレン(PS)および単分散ポリイソプレン(PI)を用いて作製した膜を足場とし、足場上における細胞挙動を評価した。PS膜はスピンキャスト法に基づきガラス基板上に製膜し、またPS層の厚さは約200nmとした。また、PSより弾性率が低く軟らかいPIを下地とし、PS膜を積層したPS/PI二層膜を作製した。二層膜におけるPI層の厚さは約200nmとし、PS層の厚さは任意に制御した。これら高分子膜に対するマウス線維芽細胞L929の接着性(接着細胞数および細胞形態)を光学顕微鏡観察に基づき評価した。また、細胞内部の状態を評価するために、細胞骨格タンパク質アクチンファイバーの形成を蛍光顕微鏡観察に基づき評価した。本研究で用いた低分子量PS膜の最表層約10nmは室温においてゴム状態にあり、高分子量PS膜ではガラス状態である。これらの膜に対する接着細胞数は、PSの分子量に依存せずほぼ一定であった。よって、細胞の接着性は、PS膜最表層の力学特性には影響されないことが分かった。次いで、PS膜表面のより深い領域における力学特性が細胞接着へ与える影響を評価するために、PS/PI二層膜に対する細胞接着性を評価した。二層膜においてPS層の厚さが約25nmより薄化すると接着細胞数は顕著に減少し、さらに細胞伸展率も減少し、表面貯蔵弾性率のPS層の厚さ依存性と良い相関を示した。またPS層の厚さが25nmの二層膜では、細胞の骨格形成は抑制され不十分であった。従って、細胞接着挙動が二層膜表面の力学特性に依存して変化することが明らかとなった。PS/PI二層膜に用いたPS層は高分子量体であり、膜表面およびバルクともに室温においてガラス状態にある。しかしながら、二層膜における細胞接着性はPS層の薄化に伴い低下した。すなわち、細胞は高分子表面においてGPaオーダーで深さ方向に変化する力学特性を認識することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高分子材料の硬さなどの物性は、表面とバルクにおいて著しく異なっているが、バルクと比べて表面における弾性率について詳細に検討されている材料は限られている。本研究では、表面弾性率と細胞接着性との関係を分子レベルで整理することに世界で初めて成功しており、研究は計画以上に進展していると評価する。本研究で得られた成果は、既に国際学会を含め複数回の学会発表を行っており、また現在、論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度に明らかにした事象についての一般性を確認するべく、他の生体適合性高分子材料を用いた評価系を確立し評価を進める予定である。具体的には、ポリメタクリル酸メチル、ポリ(アクリル酸2-メトキシエチル)、ポリ乳酸等を用い、表面弾性率が細胞接着に及ぼす効果について評価する。高分子膜としては平膜のみならず、ブラシ膜についても検討する。また、ポリスチレンと比較し、親水的な高分子材料に関しては、水界面における分子鎖熱運動性に基づく構造・物性の差異が細胞接着挙動・細胞機能に及ぼす影響についても同時に評価を進める。具体的には、中性子反射率測定および時公割蛍光偏光解消法を用いた、水界面における分子鎖凝集構造の精密解析に注力し、そのために種々の蛍光標識高分子および重水素化高分子の合成を行う。
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