2011 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝的揺らぎと孤発癌病態解明に向けた統合的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Science of Fluctuations toward Biological Functions |
Project/Area Number |
23107712
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80236017)
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Keywords | hybrid liposome / POLD4 / 肺がん |
Research Abstract |
1 遺伝的揺らぎ研究:遺伝的揺らぎの抑制遺伝子・POLD4の肺癌進展における役割を明らかにする。 (1) 一NOD/SCIDマウスより高度な免疫不全を伴うRag2, Jak3ノックアウトマウスを名古屋大学に導入繁殖を行い、マウスの安定供給体制を確立する→導入を行い、繁殖を試みたところ、下記にのみ繁殖が確認され、秋季、冬季に繁殖が停止した。当初導入個体に問題がある可能性を考え再導入を行った。(2) このマウスに種々の肺癌細胞株を接種し、癌の進展と増殖の観察を行う。必要に応じてこの細胞をあらかじめ種々の処理を行っておくことにより、新たな発癌メカニズム、癌抑制メカニズムの解析を行う→種々の肺癌細胞株を接種したところ、良好に増殖した。(3) 平成22年度までの研究からPOLD4遺伝子と発癌との関係を明らかにしてきた。この研究を個体レベルに展開するため、POLD4のノックアウトマウスを作成する→POLD4ノックアウトキメラマウスを作製するも、このアレルを有する子マウスを得ることができなかった。 2 細胞膜揺らぎ研究:ハイブリッドリポソームの癌特異的細胞死経路を解明するため以下の検討を行う。(4) ヒト癌細胞および正常ヒト線維芽細胞に対してハイブリッドリポソーム処理後、経時的に細胞を回収し、細胞膜における脂質組成の変化をMS解析により決定する→解析を行い有意な変化を観察した。(5) 上記解析結果より、ハイブリッドリポソーム添加により活性化されている脂質代謝経路群を推定する→各種遺伝子発現解析および遺伝子ノックダウン実験を行い、候補遺伝子/経路を同定した。(6) 関与が示唆された遺伝子については過剰発現系を作成し、その細胞のハイブリッドリポソーム感受性を明らかにすることによって当該遺伝子の役割を明らかにする→過剰発現系においてノックダウン系と逆の効果が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1 遺伝的揺らぎ研究:遺伝的揺らぎの抑制遺伝子・POLD4の肺癌進展における役割を明らかにする。(1) NOD/SCIDマウスより高度な免疫不全を伴うRag2, Jak3ノックアウトマウスを名古屋大学に導入繁殖を行い、マウスの安定供給体制を確立する→繁殖に困難があることが明らかとなったが、対策を講じ再び供給体制を確立した。(2) このマウスに種々の肺癌細胞株を接種し、癌の進展と増殖の観察を行う。必要に応じてこの細胞をあらかじめ種々の処理を行っておくことにより、新たな発癌メカニズム、癌抑制メカニズムの解析を行う→予想通りの結果を得ることができた。(3) 平成22年度までの研究からPOLD4遺伝子と発癌との関係を明らかにしてきた。この研究を個体レベルに展開するため、POLD4のノックアウトマウスを作成する→胚細胞に目的アレルがのらないことはノックアウトマウス実験においてはよく観察される現象であり、目的が達成された。 2 細胞膜揺らぎ研究:ハイブリッドリポソームの癌特異的細胞死経路を解明するため以下の検討を行う。(4) ヒト癌細胞および正常ヒト線維芽細胞に対してハイブリッドリポソーム処理後、経時的に細胞を回収し、細胞膜における脂質組成の変化をMS解析により決定する→滞りなく研究を行い、成果を得た。(5) 上記解析結果より、ハイブリッドリポソーム添加により活性化されている脂質代謝経路群を推定する→滞りなく研究を行い、成果を得た。さらに、細胞内マイクロドメインの構造変化を予測し、電子顕微鏡を用いて実際に構造変化を実証。論文として発表したことは計画以上の進展であった。(6) 関与が示唆された遺伝子については過剰発現系を作成し、その細胞のハイブリッドリポソーム感受性を明らかにすることによって当該遺伝子の役割を明らかにする→滞りなく研究を行い、成果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
1 遺伝的揺らぎ研究:遺伝的揺らぎの抑制遺伝子・POLD4の肺癌進展における役割を明らかにする→POLD4ノックアウトアリルは、胚細胞にのらない、もしくはヘテロであっても胎生致死であるとの結論に達した。さらにコンディショナルなノックアウトマウス作成を開始することで、実験の継続も可能であるが、本研究の期間と予算内で施工することは困難であると考え、打ち切りの判断を行った。一方、Rag2, Jak3ノックアウトマウスの安定供給系は引き続き維持し、2の実験に有効活用する 2細胞膜揺らぎ研究:当初の計画に沿って順調に研究が進んでいる。なかでも、データベース解析、各種細胞株を用いた遺伝子発現解析、脂質定量分析等により、ハイブリッドリポソームの細胞死誘導に特定の脂質代謝経路がかかわっていること、および、そのボトルネックタンパク質の同定ができたことは大きな進展であった。これまでの研究成果を論文としてまとめ、報告を行う。 これまでの実験には主として脂質研究の背景上、大腸癌細胞および神経芽細胞種細胞を用いてきた。今後は申請者の専門とする肺癌を用いることで、臨床検体における重要性も含めた研究の展開が可能であり、細胞レベルの研究から、より実践的な医学研究と揺らぎ研究のリンクを図ることが可能になると考える。臨床情報も合わせたよりインパクトの強い研究とするため、臨床検体におけるタンパクレベルでの発現様式(病理組織像)、臨床検体及び培養細胞を用いた当該遺伝子発現メカニズムの解析、該当遺伝子の癌における役割解析を行っていく必要がある。この際、1で導入したマウスを用いた個体内での解析および治療実験は有力な手段となろう。
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