2011 Fiscal Year Annual Research Report
積分方程式理論に立脚した構造揺らぎの統計力学とダイナミックス
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Science of Fluctuations toward Biological Functions |
Project/Area Number |
23107714
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 啓文 京都大学, 工学研究科, 教授 (70290905)
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Keywords | 積分方程式理論 / 構造揺らぎ / 分子性統計力学 |
Research Abstract |
生体内分子系の理解において溶媒和は重要な要素である。とりわけ溶媒和構造と溶媒和自由エネルギーは最も基本的な量であり、その高精度計算は本質的な意味を持つ。今年度は液体の積分方程式理論に基づく、これらを求める方法を確立した。具体的には以下の二つの大別される。 (1)液体の積分方程式理論においてHNC近似に基づく表式では水和自由エネルギーを系統的に過大評価することがよく知られており、以前からその改善が試みられてきた。RBC(repulsive bridge correction)はその一つであるが、一般の有機溶媒など水以外の系においては適切な補正ができないことをこれまでに見いだしてきた。この原因が排除体積部分の評価に問題があることを突き止め、溶媒分子を構成する結合情報を用いることで、一意的に正しく補正する新しい手法の開発に成功した。ベンゼンやクロロホルム溶媒の場合は本法が極めて有効であり、従来補正法を大幅に改善する一方で、水については従来補正法とほぼ同等の結果を与えることがわかった。 (2)最近我々が開発した三次元溶媒和構造を求めるMC-MOZ法は、3次元フーリエ変換を必要とせず、極めて並列化効率の高い方法である。しかしながら、その初期値生成の際にRISM法を用いていたため、この部分のみ並列化できておらず、全体のボトルネックになっていた。そこでこのアルゴリスズムを改善することで512 CPUまでのベンチマークに成功し、完全な並列化を達成した。四つの初期値生成法を検討したところ、簡単な分子については溶媒和構造および溶媒和自由エネルギーを与える一方で、カーボンナノチューブのように溶媒分子が複雑化してくるこうした初期値が数値的に重要であることを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
効率よくかつ正確に溶媒和構造と溶媒和自由エネルギーを計算することは、溶液系の理論的取り扱いにおいて、もっとも本質的で重要な要請である。これら二点に対して有用な方法論の開発に成功し、その成果は学術論文として掲載済み、もしくは投稿済みの状況になっている。こうした観点から当初の目的を十分に達成しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題では溶媒和および構造揺らぎに関わる理論構築を目標として掲げており、前者については既に完成をみている。平成24年度は実施最終年度にあたり構造揺らぎに関する研究を重点的に、引き続き推進する。
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Research Products
(9 results)