2011 Fiscal Year Annual Research Report
先端的な蛍光相関分光法を応用した生体分子の揺らぎ計測
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Science of Fluctuations toward Biological Functions |
Project/Area Number |
23107732
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石井 邦彦 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 研究員 (80391853)
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Keywords | 蛍光相関分光 / 生体分子 / 構造揺らぎ |
Research Abstract |
本年度は、以下に述べる研究を行った。 1.二次元蛍光相関分光法による生体高分子の揺らぎ計測法の確立 FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)によるサイト間距離測定の原理を応用し、プローブ色素の蛍光寿命からエネルギー移動効率を見積もることで生体高分子の構造揺らぎを計測する新しい手法(二次元蛍光相関分光法)を開発した。特にノイズを含む実験データに適用可能にするため最大エントロピー法(MEM)を用いたフィッティング解析を導入し、その効果と応用可能性を検証した。まず動的モンテカルロシミュレーションにより人工的に発生させた光子データに対して本手法を適用し、化学交換反応が起こると二次元マップ上に交差ピークが出現することを確かめた。この性質を利用して、異なる遅延時間での二次元マップを比較することで系の平衡化過程を追跡できる。この手法をヘアピンDNA分子の構造転移ダイナミクスに適用し、以前我々が観測した約100マイクロ秒の時定数での転移を二次元マップ上で特定の蛍光寿命成分間の平衡化として捉えなおすことができた。 2.蛍光寿命相関解析法による生体分子のダイナミクス計測 上記の二次元蛍光相関分光法を含む我々が独自に開発した蛍光寿命の揺らぎを計測する分光法を用い、シトクロムcの変性メカニズムの解明を目指した研究を行った。酸性変性条件下での構造揺らぎをFRETを用いて計測した結果、天然状態と変性中間状態の間の構造転移が数マイクロ秒の時間スケールで起こっていることがわかった。 その他に、本学術領域内の複数の他のグループより生体分子試料の提供を受け、我々の手法を用いた共同研究を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では先端的な蛍光相関分光法(FCS)を開発して生体分子の揺らぎ計測に応用するという目的を設定し、1.蛍光寿命の揺らぎを計測するFCSと2.偏光分解FCSの2つのアプローチを提案したが、特に1.の蛍光寿命を利用する手法の有効性が期間内に明らかになったため本年度はこの手法の発展・完成を目指すことに注力し、実際にDNAやタンパク質のマイクロ秒領域のダイナミクスについて極めて重要な知見を得ることができた。また、領域内の共同研究もすでに複数の提案があり、実験に着手している。
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Strategy for Future Research Activity |
蛍光寿命の揺らぎを計測する相関分光法、特に二次元蛍光相関分光法を応用した研究をさらに展開する。タンパク質・DNA・RNAなど様々な生体分子系への応用研究を推進すると同時に、測定の多チャンネル化によるスループットの向上を図る。また、二次元蛍光相関分光法の原理を発展させた新たな高感度計測法の開発にも取り組む。
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