2011 Fiscal Year Annual Research Report
鉄フタロシアニン錯体におけるパイd相関と新規な量子秩序相
Publicly Offered Research
Project Area | New Frontier in Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom |
Project/Area Number |
23110706
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀧川 仁 東京大学, 物性研究所, 教授 (10179575)
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Keywords | 鉄フタロシアニン錯体 / 核磁気共鳴 / パイd相互作用 / 電荷秩序 / 反強磁性秩序 |
Research Abstract |
鉄フタロシアニン錯体TTP[Fe(Pc)(CN)2]2に対して行われたこれまでの核磁気共鳴(NMR)の実験から、以下の知見が得られていた。(1)鉄のd電子と強く結合するシアノ基上の炭素および窒素サイトにおける13C、15N原子核におけるNMRスペクトルからは、常磁性状態ではd電子の磁化率キュリー・ワイス型の温度依存性を示し、約15K以下でイジング的異方性が非常に強い2副格子の反強磁性秩序を示す。(2)パイ電子密度が大きいPC環上の炭素サイトの13C-NMRスペクトルからは、常磁性状態でパイ電子系の磁化率は温度に依存しない小さな値をもち、約11K以下で磁気モーメントの大きさがゼロから有限の値まで分布するような、非整合スピン密度波様の磁気秩序を示す。同じ分子上にある2種類の電子系がこのように全く異なる振る舞いを示すのは、極めて異常であり、その微視的機構を探るために、更に常磁性状態における線幅とダイナミクス、低温磁気秩序状態における強磁場の影響を調べた。常磁性状態においてはシアノ基上の15N,Pc環上の13C両サイトにおいて、線幅が100K以下で劇的に増大した。この温度は花咲らによって見出されたX線超格子反射が現れ始める温度と一致しており、パイ電子系の電荷秩序が何らかの機構によって磁気的な不均一性を生み出していることを示唆している。また低温強磁場におけるPC環上の13C-NMRスペクトルからは、15テスラの磁場下において、パイ電子系の反強磁性秩序が消失することが明らかになった。シアノ基上の15N-NMR信号強度の磁場方位依存性からは、15テスラ以上の磁場においてはd電子系の磁気モーメントがフリップし磁場方向に揃うことが示されており、d電子系のスピン・フリップとパイ電子系の局在・非局在転移が同時に起こるという、磁気抵抗の結果から推察されていた現象が、微視的に確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
NMRの実験は概ね順調に進んでおり、現象の定性的な理解は得られているが、定量的な理論的解析がまだ進んでおらず、まだ論文として学術誌に掲載されていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、理論家と協力してNMRの結果の定量的な解析を進め、論文として発表する。またTTP[Fe(Pc)(CN)2]2のみならず関連する他の物質についても測定を進める。
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Research Products
(3 results)