2011 Fiscal Year Annual Research Report
有機化合物強相関電子系に対する第一原理有効模型構築:「物質差異」の定量化
Publicly Offered Research
Project Area | New Frontier in Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom |
Project/Area Number |
23110708
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 和磨 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教 (60525236)
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Keywords | 第一原理計算 / 低エネルギー有効模型 / 制限乱雑位相近似 / 最局在ワニエ関数 / 大規模並列化 / スピン液体 / k-BEDT-TTF / dmit塩 |
Research Abstract |
有機導体では、多くの擬一次元・擬二次元物質が存在し、低次元模型を用いて解析されることが多い。一方で、第一原理計算は常に物質を三次元系として取り扱うので、二つの手法を融合する場合、次元に関するミスマッチが生じる。我々は非経験的に、三次元系から任意の低次元有効模型を導出する方法論を開発した。この手法により、厳密に、模型導出過程と模型解析過程の次元が整合される。この手法を代表的擬二次元系k-(BEDT-TTF)2Cu(SCN)2(k-BEDT)およびEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2(dmit)に適用した。両系共に、(1)三次元有効模型の段階でみられる長距離型クーロン相互作用(1/eps r)が、二次元模型では湯川型の短距離相互作用に変わること、(2)オンサイト相互作用の値自体も約25%の減少することが分かった。上で導出された有機化合物の第一原理有効模型の信頼性を調べるために、多変数変分モンテカルロ法(mVMC)による解析を行った。有効模型の相互作用項に対するスケールパラメータλを導入し、λを変化させて、転移を与える値を調べたところ、λ=0.78で転移が起こることが分かった。この物質は、実験から、金属絶縁体転移点近傍に存在していることが知られているので、理想的には、λ=1で転移が再現されることが望ましいが、この結果は、第一原理パラメータは相互作用を約20%過大評価していることを示している。k-BEDTでは、フェルミレベル(ef)から-0.5eVの位置に、HOMO結合バンドが存在している。先の解析はHOMO反結合バンドのみを考慮した単一バンド模型に基づくが、この模型のオンサイト相互作用Uは0.64eVであるので、電子相関の及ぶ範囲□U□に、HOMO結合バンド(単一バンド模型では消去された自由度)が存在していることとなり、ゆえに、系を単一バンド模型として解析したこと自体が不一致の原因として考えられる。よって、HOMO結合バンドも含めた二バンド模型の導出を行った。HOMO結合バンドよりさらに下のバンドは、efから約-1eVのところに存在し、一方、二バンド模型のUは0.83eVであるので、二バンドを模型対象自由度とすることは合理的である。現在、この二バンド模型について解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題推進のための「制限RPA計算コード」およびそれの高速化(大規模並列化)が完成し、k-(BEDT-TTF)2Cu(SCN)2(k-BEDT)およびEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2(dmit)への応用研究を進め、各々の課題について論文を纏める事ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究推進の中で、検討課題が見出されている。とくに、今年度導出した、単一バンド有効模型は実験との一致が不十分であり、より一般的な多バンド有効模型の導出が本質的であることが見出されている。今後はこれに注力する。また、本申請課題の、もうひとつの中心テーマである「制限GW計算コード」の開発にも努める。現在、このコードのためのアルゴリズムを完成した段階であり、今後、実装に移る。最終的には、「制限RPA計算コード」と同様、大規模並列化を行う。
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