2011 Fiscal Year Annual Research Report
精密比熱測定と第一原理バンド計算から明らかにする有機超伝導体の超伝導秩序変数構造
Publicly Offered Research
Project Area | New Frontier in Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom |
Project/Area Number |
23110715
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
米澤 進吾 京都大学, 理学研究科, 助教 (30523584)
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Keywords | 有機物超伝導 / 微小試料熱容量測定 / 磁場角度分解比熱測定 / 非従来型超伝導 / 熱磁効果 / 超伝導ギャップ構造 / バンド計算 |
Research Abstract |
本年度は、微小な試料の比熱をより精度よく決めるための新しい比熱測定セルを開発した。このセルでは、これまで申請者らが用いてきた交流法に加えて、より熱容量の精度の高い緩和法を用いた測定も行える。さらにこのセルの新しい点は、熱磁効果も併せて測定できるという点である。熱磁効果とは「外部磁場を変化させた際に試料の温度が変化する現象」のことであるが、この温度変化から試料のエントロピーの磁場微分を決めることができる。従って、試料のエントロピーの温度微分を得ることのできる比熱測定とは相補的な測定方法である。セルの作製に加え、比熱や熱磁効果の測定をほぼ全自動で行うためのプログラムも開発した。これらの新しく開発した装置を用いて、スピン3重項超伝導体Sr_2RuO_4の熱磁効果測定および比熱測定を行った。その結果、驚くべきことに、磁場を結晶のab面に平行に印加した場合に、この物質の超伝導転移が低温高磁場で1次相転移になっていることを明らかにした。通常の(第2種)超伝導体では、超伝導転移は常に2次相転移であり、これまで知られているわずかな例外もスピン1重項超伝導体のみで見られている。従って、我々の結果はスピン3重項超伝導体において超伝導転移が1次相転移になっている例を初めて示したことになり、超伝導と磁場の相互作用にこれまでに知られなかった寄与が存在していることを強く示唆している。このことは、今後の超伝導研究に重要な影響を与えると考えられる。また、バンド計算用のワークステーションを購入し、バンド計算が可能な環境を立ち上げた。 さらに、これまでの成果を論文としてPhysical Review B誌にRapid Communicationとして発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの成果を論文として発表することができ、招待講演もさせていただいた。実験に関しても、当初の予定とは測定物質が異なっているものの、来年度の研究につながる非常に強力な測定装置の開発および運用に成功するとともに、Sr_2RuO_4に関してはインパクトのあ:る論文として出版が可能なデータをそろえることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はセルの開発という面もあったため、実験装置が1セットしかなく、マシンタイムの問題からSr_2RuO_4以外の物質の測定に移ることができなかった。対策として、実験セットをもう1セット増設する。実際、本年度開発したセルをさらに改良した設計の熱測定セルが既に完成しており、これを用いて、より実験の密度を上げるようにする。また、バンド計算に関しても引き続き計算を行っていく。
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