2011 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン共役電子移動を利用した機能性有機電子材料の開発
Publicly Offered Research
Project Area | New Frontier in Materials Science Opened by Molecular Degrees of Freedom |
Project/Area Number |
23110718
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平尾 泰一 大阪大学, 理学研究科, 助教 (50506392)
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Keywords | 分子性導体 / プロトン共役電子移動 / 水素結合 / 有機ラジカル / 構造有機化学 / 分子ネットワーク |
Research Abstract |
本研究課題は、プロトン移動が伴う電子移動反応であるプロトン共役電子移動(PCET)反応の機構解明を分子の立体構造および電子構造の観点から解明し、これを分子性導体の伝導機構へ応用することを目的としたものである。本年度は前者の反応機構に関して、反応活性中間体を結晶として単離して構造を調べ、さらにPCETを実験的に発現させることで実験的に解明することを目指した。そこで、既に理論的研究がなされているフェノール-フェノキシル水素結合間の自己交換PCET反応を基礎として研究を行った。これまでにアンスロール-アンスロキシルの組み合わせを用いることで、理論的に予測されたPCET反応の遷移状態に類似した構造を水素結合型錯体として安定に取り出すことに成功している。また構造相転移に伴うPCETの活性化にも成功している。そこで本年度は、反応の活性化障壁を小さくして反応活性化をより容易にするべく、新たなアルコール体・ラジカル体の組み合わせを設計、合成した。BDTOと名付けた新規ラジカル体は2つのチオフェンを縮環したフェノキシル誘導体であり、計9段階、全収率12%で合成することができた。X線構造解析、ESR測定、およびIR測定からラジカル体のスピン電子状態について調べたところ、酸素原子上のスピン密度がアンスロキシルと比べ高まっていた。また、ラジカル体とアルコール体の溶液を混合したところ、それらが3:1で含まれる4量化錯体を結晶として単離することができた。錯体中、ラジカルとアルコール体は水素結合を形成し、その酸素原子間距離は2.56Aであった。これは以前の系よりも短く、スピン密度の上昇によって酸素原子p軌道間の相互作用が高まった結果と言える。さらに水素結合間に存在するプロトンは両酸素原子間の中点に分布していたことから、得られた錯体はPCETの遷移状態に類した状態にあることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度内に計画していた新規分子の設計および合成を完了することができた。また、研究目的に掲げていたPCET遷移状態に類した構造を単結晶として取り出すことにも成功した。このように申請書に記載した計画の通り研究は行えており、研究の目的へ向けて着実に前進している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は現在得られている水素結合錯体の電子状態について、領域内の他の研究者とも協力して調べることを計画している。特に分光学的手法を用いて、プロトンや不対電子の挙動に注目する予定である。これによって分子間のPCET反応において最適な分子の立体配置および電子状態を導き出す予定である。一方、PCETを分子性導体の伝導機構に応用することを目指して、PCET反応活性な水素結合部位を複数個もつ化合物を設計・合成する。それらを繋ぎ合わせることで、プロトン移動が伴う電子伝達ネットワークを構築することを計画している。
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Research Products
(4 results)