2011 Fiscal Year Annual Research Report
色素細胞の表皮内空間配置とメラニン色素輸送のメカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Cross-talk between moving cells and microenvironment as a basis of emerging order in multicellular systems |
Project/Area Number |
23111537
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田所 竜介 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50425633)
|
Keywords | 色素細胞 / 表皮細胞 / メラニン色素 / 空間配置 / 細胞間輸送 |
Research Abstract |
我々の表皮にはメラニン色素が存在しており、紫外線防御など重要な役割を果たす。表皮全体がメラニン色素によって一様に着色されるためには、初期発生期に生み出された色素細胞が移動しつつ表皮全体に均一に配置される必要がある。本研究においては、はじめに計算プログラムを作成して胚発生ごとの色素細胞の分布を数理的に評価した。胚発初期には胚背側に偏った分布をとり、それ以降に均一な分布が確立される。このときの色素細胞間の距離がおよそ等間隔であることを初めて数理的に示した。また色素細胞間の間隔は胚発生が進むにつれて徐々に広くなる傾向がある。この等間隔性を産み出す機構として、色素細胞の仮足同士を接触させ距離を測るという仮説を立てこの検証につとめた。低分子量Gタンパク質(RhoやRac1など)を用いて仮足の長さや形状の操作し、空間配置に及ぶ影響の調査を試みたが、従来の遺伝子操作法による導入効率の低さが問題となり解析が困難であった。そこで遺伝子導入された色素細胞のみを単離し、胚に移植する方法を新たに確立し、極めて高い効率で遺伝子操作することを可能にした。この手法を用いて解析をおこなったが、現段階においては仮説を直接支持する結果はえられていない。一方、色素細胞の周囲環境である表皮細胞に発現する分子の同定、およびそれらの分子によって表皮細胞の遺伝子操作を行い色素細胞の配置に影響を及ぼす分子を探索した(現在も引き続きおこなっている)。その結果、過剰発現させることにより色素細胞間の間隔を顕著に短くする分子の同定に成功した。以上、本研究により空間配置の解析をおこなう技術基盤を整え、さらに空間配置に関わる可能性のある分子の特定に成功しつつある。これら平面方向の色素細胞の配置に加えて、個々の色素細胞が必ず基底側に細胞体を置き頂端側に仮足を伸ばし秩序立って配置(頂端-基底方向の配置)されることなども見出しつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は色素細胞の空間配置について解析を進めるべく、まず当初の計画通り解析の基礎となる計算プログラムを作成し、正常発生における分布様式を調査した。この分布をもとに研究計画に従って、色素細胞の仮足の操作をおこない配置に及ぶ影響の調査を試みた。概要にも述べたとおり、予期せぬ技術上の問題から繰越を行い、新たに高効率で色素細胞の遺伝子操作できる手法を確立し調査を遂行した。現時点では仮足同士の接触により距離を測るという仮説を支持する結果は得られていないが、周囲の表皮細胞において発現する遺伝子の同定とそれらの機能解析から、色素細胞の配置に影響を及ぼす分子を同定するに至った。目的を達成するためのストラテジーについては若干の軌道修正をおこなったものの、最終目的である色素細胞の空間配置の分子機構の理解に着実に近づきつつある。また本研究の主題である平面方向の配置に加えて、新たに頂端-基底方向の配置を見出すなど色素細胞の空間配置の理解を深めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究期間内に確立した遺伝子操作を用いて引き続き仮足の働きを検証するとともに、今回同定した分子(表皮細胞に発現し空間配置に関わる可能性が示されたもの)の機能を詳細に調べる。この分子を表皮細胞に過剰発現させると、その表皮細胞の周囲に色素細胞が密集し色素細胞の等間隔配置が大きくみだれる。表皮細胞のみならず色素細胞において同分子の受容体などを操作し、表皮細胞と色素細胞の相互作用に注目して空間配置の理解をより深める。例えば、これらの操作によって個々の色素細胞の振る舞いがいかに変化し、その結果全体の空間配置がどのような過程を経てみだれるのかをライブ観察を用いて明らかにする。研究計画としては、研究期間内の結果を受けて表皮に発現する分子の解析を重点化するものの、仮足の役割などについては大きな変更もなく引き続き計画を推進する。本研究期間に解析の基盤となる技術の確立や基礎的な観察を完了しているため、今後研究を効率良く推進できるものと期待される。
|
Research Products
(11 results)