2011 Fiscal Year Annual Research Report
階層的シミュレーションによる球状錯体創発過程の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Emergent Chemistry of Nano-scale Molecular System |
Project/Area Number |
23111725
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
米谷 慎 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 研究グループ長 (30443237)
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Keywords | 超分子 / 自己組織化 / 分子シミュレーション / 金属錯体 / 創発 / 租視化 |
Research Abstract |
本研究は、分子レベルの高次構造創発のメカニズムを、階層的シミュレーションを用いることにより分子論の観点から解明することを目的とするものである。初年度であるH23年度は、まず必要な設備の調達等により研究環境を整備した後、二配座配位子24分子と、平面4配位遷移金属(Pb2+)12原子との計36個の要素から形成される球状錯体M12L24をターゲットとして、X線回折実験から得られている錯体構造等を参照することにより、リアリスティックな全原子モデルによる錯体相互作用のモデングを行う計画であった。錯体相互作用のモデル化については、研究計画の通り、Pangらにより提唱されているCationaic Dummy Atom Methodを用いたPd(II)錯体モデルを適用することにより、回折実験により得られている錯体構造を妥当な精度で再現することを確認した。研究計画の次のステップとして、配位子分子および溶媒分子を球状錯体の安定性を検証しながら段階的に粗視化し、得られた粗視化モデルを用いて自己集合シミュレーションを行ったが、当初計画した配位子分子の分子モデルへの粗視化モデルの適用は、結果として本来の目的である、球状錯体の創発過程の重要な要素を損なう事が検討の結果明らかとなった。そのため、当初の計画を一部見直し、粗視化を溶媒モデルにのみとどめたモデリングに於いて目的とする球状錯体の構造創発が、当初ターゲットとした球状錯体系より構成要素数の少ないM6L8系に於いて再現させることに成功した。自発形成したM6L8錯体中の6つのPd(II)の配位数の時間変化を解析すると、最初の約50nsまではほぼ単調に配位数が増加し(自己集合)、その後の50-80nsの期間では煩雑な配位数の変化に伴う構造の組み換えが起こり(構造進化)、80ns以降は配位数がほぼ4に固定化されている(構造捕捉)。言い換えると、第2ステージで増加した配位子交換速度が、第3ステージで2桁以上変化して非常に低い値となっており、この交換速度の大きな変化は、成長途中の不完全な錯体クラスターと完成した球状錯体との間に寿命(半減期)の大きな差があることを意味し、実験系で得られている知見とも一致する。上記の寿命の大きな差は、球状ウイルス殻モデルの形成シミュレーションでも見出されており、一義構造の構造創発に共通する特徴である重要な可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した、配位子分子の分子モデルへの粗視化モデルの適用は、結果として、本来の目的である、球状錯体の創発過程の重要な要素を損なう事が検討の結果明らかとなり、これに関して当初の計画を一部見直さざるを得なくなった。しかし、粗視化を溶媒モデルにのみとどめたモデリングに於いて目的とする球状錯体の創発過程の再現の目途がつき、トータルとしては順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検討で得られたモデルで目途がついた球状錯体の創発過程に関し、来年度は引き続き解析を進め、より詳細に創発過程の解明に努める。
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