2011 Fiscal Year Annual Research Report
分泌性シグナルタンパク質の細胞内輸送機構とその破綻による疾患の発症機序の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Intracellular logistics: interdisciplinary approaches to pathophysiology of membrane traffic |
Project/Area Number |
23113730
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Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
高田 慎治 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (60206753)
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Keywords | 細胞・組織 / 発生・分化 / 遺伝子 |
Research Abstract |
Wntの分泌過程では、小胞体に局在するPorcupine(Porc)というアシル基転移酵素による脂肪酸修飾が重要であり、この修飾を受けられないWntは小胞体に留まる。一方、Porcはヒトのfocal dermal hypoplasia (FDH)という疾患の原因遺伝子であることが判明している。しかしながら、ヒトで19種類存在するWntタンパク質の作用のすべてを考えてみた時、FDH患者の疾患はそのすべてを反映しているようには見えず、個体内においてはPorcはすべてのWntの分泌に等しく関わるのではなく、むしろ特定の細胞もしくは特定のWntに対してのみ働く可能性も考えられる。そこで、本研究ではWntの分泌に対するPorcの影響について詳細な検討を行った。Wntの種類ごとのPorcの影響の違いを検討するため、Wnt5とWnt-3aに着目し、各々のmRNAをPorc MOとともにゼブラフィッシュ受精卵に顕微注入し、その各々の分泌が阻害されているかどうかを胞胚期の外胚葉上皮細胞において解析したところ、Porcの機能阻害の効果はWnt5に対して特異的であることが明らかになった。このことからWntの分泌機構は必ずしもすべてのWntにおいて同一ではない可能性が強く示唆された。一方、PorcはWntのセリン残基にモノ不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸を付加するが、このセリンをアラニンに置換したWnt3aはいくつかのほ乳類培養細胞においてはこの置換体が少量ながらも分泌されることを見いだした。以上の結果より、Porcは必ずしもすべてのWntタンパク質の分泌には関わっておらず、Wntの種類や細胞種の違いによって異なる分泌機構が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでWntの分泌に必要なアシル基転移酵素として捉えられてきたPocupineがWntの種類や細胞の種類に応じて特異性をもって作用するかどうかを検討することが本研究の目的である。平成23年度当初の計画に記載した以下の2つの項目について検討を行い、各々以下のような成果を得た。 (1) Porcの機能を阻害したゼブラフィッシュ胚の解析:Wntの種類ごとのPorcの影響の違いを検討するため、Wnt5とWnt-3aに着目し、各々のmRNAをPorc MOとともにゼブラフィッシュ受精卵に顕微注入し、その各々の分泌が阻害されているかどうかを胞胚期の外胚葉上皮細胞において解析したところ、Porcの機能阻害の効果はWnt5に対して特異的であることが明らかになった。 (2)さまざまな培養細胞を用いたPorc機能の比較:PorcはWntのセリン残基にモノ不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸を付加するが、このセリンをアラニンに置換したWnt3aはいくつかのほ乳類培養細胞においてはこの置換体が少量ながらも分泌されることを見いだした。 以上のことから、本研究は当初の計画通りの成果を得つつあるものと判断できる。その一方、研究協力者の出産のため、本研究の遂行に若干の遅れが生じた。これらのことがらを総合的に考慮し、「研究はおおむね順調に進展している」ものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果をもとに、以下の実験を実施することを計画している。 (1)Wntの種類に応じたPorcの必要性の解析:前年度の研究から、ゼブラフィッシュ胚においては、Porc阻害の影響がWnt5の分泌と脂肪酸修飾には表れるものの、Wnt3aに対しては影響を与えないこと、すなわちWntの種類によってPorc阻害の影響が異なることが明らかになった。そこで、異なるWnt間では分泌に必要なPorcの量が異なるのか、またゼブラフィッシュ胚以外の系でも同様なことが起きるのかを検討するため、いくつかの培養細胞においてPorcの機能を段階的に阻害し、Wnt3aおよびWnt5aの分泌に対する影響を詳細に調べる。 (2)Porcによる脂肪酸修飾とWntキャリアであるWntless(Wls)との関連性の解析:小胞体でPorcにより脂肪酸修飾を受けることが、なぜその後のWntタンパク質の細胞内輸送に必要なのかは全くわかっていない。このことはWntの細胞内輸送に及ぼすPorcの役割をさらに解明していく上での大きな問題である。Wntの細胞内輸送のキャリアとしてはWntlessが同定されているが、これまではその機能はゴルジ体から細胞膜への輸送であると考えられてきた。最近になって脊椎動物の抗Wntless抗体を用いた解析から、Wntlessが小胞体にも存在することが示されている。そこで、Wntless機能阻害胚において、Wntの細胞内輸送がどの段階で異常を呈するか、すなわち小胞体からゴルジ体への輸送か、それとも従来言われているようにゴルジ体から細胞膜への輸送かを培養細胞(L細胞など)とゼブラフィッシュ胚を用いて検討する。 (3)FDHに見られるPorcの異常とWnt分泌との関連性:FDHの患者において確認されたPorcの点突然変異が、Wntの分泌に与える影響を培養細胞などを用いて検討する。
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[Journal Article] Ripply3, a Tbx1 repressor, is required for development of the pharyngeal apparatus and its derivatives in mice2011
Author(s)
Okubo, T., Kawamura, A.,Takahashi, J., Yagi, H., Morishima, M., Matsuoka, R., Takada, S.
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Journal Title
Development
Volume: 138
Pages: 339-348
DOI
Peer Reviewed
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