2011 Fiscal Year Annual Research Report
ATP駆動の回転分子モーターを用いたATP加水分解の1分子熱力学
Publicly Offered Research
Project Area | Water plays a key role in ATP hydrolysis and ATP-driven functions of proteins |
Project/Area Number |
23118717
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
古池 晶 大阪医科大学, 医学部, 助教 (60392875)
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Keywords | 分子モーター / ATP加水分解 / 1分子計測 / 熱力学 / 生物物理 |
Research Abstract |
ATP駆動の回転分子モーター・F1-ATPase(F1)は、1分子観察によって、その回転が明瞭に示され、最近では、ATP結合部位でのATP加水分解サイクルの素過程(結合・加水分解・分解物リリース)と、回転軸角度との対応関係もほぼ明らかにされた。しかし、ATP加水分解の化学エネルギーが、どのようにして回転運動へと変換されているのかという核心の問題は、いまも不明のままである。本研究では、この変換の仕組みへ直接迫るために、1分子観察と熱力学の手法を組み合わせ、ATP加水分解サイクルの各素過程でのエネルギーの出入り(自由エネルギー図)を決定したい。F1と、液胞型V1-ATPase(V1)を用いて、1分子観察でのみ測定可能な各素過程速度を、環境(温度やATP加水分解の自由エネルギーなど)を変化させて測定し、従来は困難を極めた各素過程間の熱力学パラメーターの取得を目指す。 F1やV1の回転軸先端に直径40nmの微小金粒子を付け、レーザー暗視野照明を用いた顕微鏡下での高速観察によって、その回転運動をほぼ無負荷の状態で直接捉えることができる。この観察系を用い、溶液中のATP・ADPを等濃度にしてその濃度を変化させて、回転運動を観察した。これは、一定のATP加水分解の自由エネルギー(ΔG)の大きさの下で、回転速度のATP濃度依存性を観たことに等しい。ADPなしの場合と比較して、回転速度が半分ほどに低下した。解析の結果、ATP結合待ちの回転角度の停止時間が増加することに起因していることがわかった。ADP解離の素過程が観えてきた可能性がある。 また、回転軸の短い変異体では、律速となる停止角度が、3つ以上見られるものがあり、分解物リリースの素過程が、従来とは別の角度で独立に起きている可能性が出てきた。ATP加水分解の詳しい素過程を見るためのモニター分子として利用したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画での最低限の設定目標である以下の2点が達成されている。 (1)溶液中のATP・ADP濃度を変化させて、F1の回転運動を観察した。 (2)ATP加水分解の詳しい素過程を見るためのモニター分子として、回転軸の短い変異体から候補を絞り込んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、以下の3項目を実施していく。 (1)溶液中のATP・ADP濃度を変化させて、F1の回転運動を観察することに加え、各環境項目[(1)温度、(2)重水、(3)有機溶媒、(4)変性剤]を組み合わせた条件で、同様の実験を行い、基礎熱力学パラメーターの蓄積を行う。 (2)これまでに、回転軸の短いF1変異体のうち、速い回転速度(適当な回転速度がないと観測時間が長くなりすぎる)と停止角度の多さ(多いほうが素過程を分離しやすい)を満たすものを2つにまで絞り込んだ。早々に、素過程と停止角度の対応付けを終わらせ、モニター分子として使えるか、結論を出したい。 (3)溶媒環境の効果を明白にするには、同一の分子を観察しながら環境を変化させて、その影響を調べた方が良い場合も多い。スムーズな溶媒交換が実現できると、実験の大幅な効率化と実験結果の説得力が期待できる。1分子観察の手法でのみ取り出せる情報をより定量的に扱うために、シンプルで使いやすい還流システムの開発と、より安定した像を得るための光学系の改良を試みる。
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Research Products
(6 results)