2011 Fiscal Year Annual Research Report
視聴覚相互作用に基づく顔定位特性に関する認知心理学的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Clarification of the mechanism of face recognition by interdisciplinary research |
Project/Area Number |
23119707
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横澤 一彦 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20311649)
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Keywords | 顔認知 / 腹話術効果 / 視聴覚相互作用 / 統合的認知 / 高次視覚 |
Research Abstract |
腹話術効果という視聴覚相互作用による誤定位現象の生起要因や、腹話術効果とMcGurk効果の相互関係を検討した。特に、多義的な解釈が成り立つとき、どのような顔表象として統合されるのかを確認した。たとえば、右側のスピーカーから/pa/という音声を物理的に呈示しているにもかかわらず、McGurk効果が生起するならば右側から/ta/という音声、腹話術効果が生起するならば左側から/pa/という音声が聞こえるような視覚刺激を呈示した。このような実験計画により、腹話術効果という視聴覚相互作用による誤定位現象の生起要因や、腹話術効果とMcGurk効果の相互関係を検討した。 本来、腹話術効果は、人形使いと人形という2つの顔情報の存在で生起する現象を指すはずであるが、これまでの認知心理学的研究は、簡単化され、1つの顔と1つの音声との誤定位の問題として扱われてきた。しかしながら、1つの顔しか呈示されない実験状況では、音声が発せられるのは呈示された顔しかないというバイアスがのった実験結果である。人形使いと人形という2つの顔情報が存在すれば、どちらが音声を発するか不確定という状況、すなわち多義的な解釈が成り立つ状況において、発声源を判断させる実験でなければ、本来の腹話術効果の生起要因は解明できないと考えられる。物理的要因のみならず認知的要因も腹話術効果の大きさを規定する可能性を検証した結果、視聴覚間の音韻整合性が、聴覚的音源定位に影響し、提示された顔刺激の中で音韻整合性が高い発話側に偏ることが明らかになった。同時に、視聴覚間の音韻整合性による錯覚の代表的現象であるMcGurk効果の生起も確認できた。音韻整合性という認知的要因が視聴覚融合手がかりとなり得たことは、腹話術効果の規定因は、従来研究の結果とは異なり、視覚刺激としての顔が複数提示される場合に変化することになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
音韻整合性という認知的要因が手がかりとなり得たことは、腹話術効果の規定因が視覚刺激としての顔が複数提示される場合に変化することになるので、従来研究の主張が般化できないことを示している。視覚刺激としての顔の単独提示ならば、認知的要因に関係なく感覚融合するが、複数顔の同時提示の場合には、発話音源らしい顔を選ぶためには音韻整合性も考慮されるという考察は、感覚融合認知の重要な側面を明らかにしたことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果により、単一の感覚モダリティによって知覚とは異なる多感覚的知覚の生起が明らかになったので、モダリティ統合の誤認知としての腹話術効果やMcGurk効果などの規定要因を、多義的な解釈が可能である状況下で、引き続き明らかにする。誰が何を話しているかを知ることが、顔認知処理の基本であり、腹話術効果などの現象の基本特性を問い直すことにより、顔情報が持つ特異性を明らかにすることを目指す。
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