2011 Fiscal Year Annual Research Report
リン酸化プロテオミクスを用いたがん細胞特異的シグナル伝達機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative Systems Understanding of Cancer for Advanced Diagnosis, Therapy and Prevention |
Project/Area Number |
23134507
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
杉山 直幸 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特任講師 (50545704)
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Keywords | がん / プロテオミクス / シグナル伝達 / リン酸化タンパク質 |
Research Abstract |
がん細胞では、チロシンキナーゼ受容体の過剰発現や調節機構の損失などにより正常細胞と比較して細胞分裂に関わる様々なシグナル伝達経路が活発化している。本研究では、ナノ液体クロマトグラフィー-質量分析法(nanoLC-MS/MS)を用いたリン酸化プロテオーム解析によりタンパク質のリン酸化を網羅的に同定、定量し、がん組織に特異的、または過剰に亢進しているシグナル伝達経路や関与するプロテインキナーゼを明らかにすることを目的とする。 本年度では、最初に、リン酸化プロテオミクスを行うための試料調製法の開発として、組織からのタンパク質抽出の最適化を行った。さらに、測定技術の高感度化を行い、分析カラムのミクロ化や界面活性剤を用いた溶解法を組み合わせることで超高感度分析システムを構築した。開発した分析法を用いることで、従来法に比べてMSへの試料導入効率は約30倍に増加し、微量なペプチドでも高感度に分析することが可能となった。このことにより、1分析で4000種以上のリン酸化サイトが同定できるようになっただけでなく、これまで測定が困難だった極微量の試料量からでも大規模なリン酸化プロファイルが得られるようになった。 次に最適化した試料調製法を用いて、がん及び正常組織の代謝酵素の定量解析及びリン酸化プロテオーム解析を行った。がん組織において解糖系やTCA回路の酵素が発現レベルで増減していることが確認された。また、タンパク質のリン酸化においても、がんの種類特異的にリン酸化が亢進しているタンパク質上の部位が観測された。次年度においては、データの蓄積を進めて、詳細な解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施計画の内、試料調整法の最適化と、がん及び正常組織のリン酸化プロテオーム解析については当初の計画通りに進行しており、一定の成果が得られた。一方、データの可視化ツールについては本年度中に着手できなかったが、研究全体としては順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度中に行う予定であったデータの可視化ツール開発に着手する。本年度に実施した研究や共同研究により、代謝酵素などの発現量や、代謝物質量の変動(メタボローム解析)データも得ており、これらのデータについても統合可能なマルチオミクスデータの可視化法として開発する。 がん細胞と正常細胞のリン酸化プロテオミクスについては、引き続きデータの取得を行い、開発した可視化ツールにより情報の整理と抽出を行う。また、蓄積されたデータをもとに、主成分解析やクラスター解析などの多変量解析を行い、がん細胞に特徴的なリン酸化修飾を決定し、がん特異的シグナル伝達経路を推定する。
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