2011 Fiscal Year Annual Research Report
実環境での安定した色認識における質感の役割
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative studies of neural mechanisms and advanced information technologies for perception of material and surface qualities |
Project/Area Number |
23135506
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
溝上 陽子 千葉大学, 大学院・融合科学研究科, 助教 (40436340)
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Keywords | 色の恒常性 / 質感 / 色覚 / 照明認識 / ナチュラルネス |
Research Abstract |
照明条件等、環境が変化しても物体の色や明度を正確に判断できる、色認識の安定性(色恒常性)は、私たちが生きる上で大切な能力である。質感は個々の物体の認識に影響を与えるだけではなく、安定した色知覚のために必要な周辺環境全体の認識(空間、照明、色分布等)にも寄与すると考えられる。本研究は、質感の変化が視環境の(照明、空間)認識に与える影響、視環境の変化が質感に与える影響、物体の質感がその色認識に与える影響、という3つの観点から、視環境と質感、色認識の安定性の相互関係を総合的に明らかにすることを目的としている。 まず、テスト刺激における質感の効果を調べるため、部屋を模した実物大のブースを用いて研究を行った。白色照明と電球色照明下でのテスト刺激の色の見えを視感評価実験により測定し、テスト刺激の質感の有無が色恒常性を高めるかどうかを検討した。4種類の素材で比較した結果、色の恒常性に対する質感の影響は、通常の観察条件では小さいことが分かった。 次に、視環境における質感の効果を調べるため、マット紙で構成されたミニチュア室を用いて明度と彩度知覚を測定した。その結果、室内の物体の明度の恒常性が低下する傾向にあり、質感の乏しい環境では正確な照明の認識が得られ難いことが示唆された。 また、画像を用いた実験では、頭の動きによる網膜像差(運動視差)の情報を加えることで空間や質感が認識しやすくなった場合は、一定の観察条件下で色恒常性が向上することが確かめられた。さらに、画像の彩度に対する順応効果は、物体や質感の認識ができない場合に低下することが示された。 これらの結果から、対象とする物体(テスト刺激)の質感は色の恒常性に大きく影響しないが、周囲が多様な質感を含むナチュラルネスの高い環境の場合、色恒常性は向上することが示唆される。さらに検討を進めることにより、画像・環境設計分野での応用につながると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記載した実験全てを完了する事はできなかった。ただし、研究目的には含まれるが、年度当初には計画に入れていなかった実験を、予想以上に進めることができた。したがって、「研究の目的」に対する達成度という総合的な観点から考えると、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、質感の変化が視環塊の(照明、空間)認識に与える影響、視環境の変化が質感に与える影響、物体の質感がその色認識に与える影響、という3つの観点から研究を推進する。テスト刺激における質感の効果を検証する実験では、さらに多くの種類の素材を用いて検証する。さらに、これまで同一形状で異なる質感サンプルを用意することが困難であったが、今後は同一形状の様々な素材を含む質感サンプルセットを用いて、形状の影響も検討していく。ミニチュアを用いた視環境における質感の効果を調べる実験においては、様々な質感で構成された室内では、明度・色の恒常性が改善するかを検討する。また、実環境での色評価実験も計画している。
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