2023 Fiscal Year Annual Research Report
野生チンパンジー社会における高齢個体の生き様:人口動態と行動観察による再定位
Publicly Offered Research
Project Area | Lifelong sciences: Reconceptualization of development and aging in the super aging society |
Project/Area Number |
23H03881
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
松本 卓也 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (60827137)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | チンパンジー / ニホンザル / 閉経 / 祖母仮説 / 長寿 / 霊長類 / 社会性 / 山岳研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢期の非ヒト霊長類に関する研究の多くは、「成長から衰退へ」という従来の発達観で議論されてきた。例えば、高齢個体は社会的紐帯が希薄になるという指摘や、加齢による身体的「衰え」を示す観察報告は多くある。これらは「老い」の特徴を非ヒト霊長類で示すうえで非常に重要である。一方、野生チンパンジーの発達を間近で見てきた私は、「チンパンジーの発達過程を、他個体との相互行為によって多様な変容を繰り返すプロセスとして捉え直すべき」と考えてきた。本研究を通して、非ヒト霊長類の新しい「生涯学」を提示し、ヒトを含む動物の高齢個体の生き様を改めて捉え直す契機としたい。本年度は約1か月間、タンザニア連合共和国のマハレ山塊国立公園でフィールドワークを行い、野生チンパンジーの行動観察を行った。高齢個体と他個体との関わりに関する情報を蓄積することができた。また、生活史を種間比較する際の課題を論考としてまとめた。特に、行動観察に基づく比較は塩基配列のような物質的基盤を持たないゆえの困難さが生じることを論じた。さらに、生涯学領域会議に参加し、ポスター発表等を通じて生涯学に携わる研究者たちと研究交流を行った。社会学者・脳科学者・心理学者・人類学者といった幅広い専門分野の研究者たちと交流の機会を得た。また、信州大学とタンザニアのダルエスサラーム大学と間で「事前同意(PIC: Prior Informed Consent)」および「相互に合意した条件(MAT: Mutually Agreed Terms)」の締結を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1992年の生物多様性条約の採択以降、遺伝資源の利用から生ずる利益を資源提供国にも還元しようとする機運が高まっており、世界各国において「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な利益配分(ABS: Access and Benefit-Sharing)」に関する法整備が進んでいる。現在、チンパンジーの父子判定のためのDNA解析を目的として、タンザニア研究研究機関および現地大学の関係者と生物多様性条約やABSに関する議論を深め、私が所属する信州大学とタンザニアのダルエスサラーム大学と間で「事前同意(PIC: Prior Informed Consent)」および「相互に合意した条件(MAT: Mutually Agreed Terms)」の締結を準備中である。その準備が当初の予定よりもやや遅れており、DNA解析の結果がまだ出せていない。 一方、現地での行動観察は問題なく継続しており、高齢個体と他個体とのやり取りに関する情報を蓄積できている。
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Strategy for Future Research Activity |
私が調査対象とするタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジー集団は、半世紀を超える長期調査により、50歳を超えて生存・繁殖する野生チンパンジーの存在が明らかになっている。本研究では、チンパンジー高齢個体が担う社会的役割を明らかにするために、①高齢メスが娘の子育てを支援するか、②高齢オスが血縁個体に選択的に支援するか、を行動学的に検証する。さらに、近年調査を始めた上高地および地獄谷のニホンザル集団においても、高齢個体特有の行動が観察されたことから、ニホンザル高齢個体の生き様も解き明かしたいと考えている。
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[Presentation] Behavioral study of fish hunting in three groups of Japanese macaques (Macaca fuscata) from Kamikochi based on the individual identification method-Analysis of sex differences, age differences, and behavioral variation in fish hunting-2023
Author(s)
Ayaka Tsuchihashi, Masaki Takenaka, Kosuke Hayashi, Genki Yamada, Takayuki Ogura, Mone Ito, Shohei Isokado, Ema Nagahara, Koji Tojo, Takuya Matsumoto
Organizer
International Primatological Society - Malaysian Primatological Society (IPS-MPS) Joint Meeting
Int'l Joint Research
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