2023 Fiscal Year Annual Research Report
ドナー・アクセプターモデル二次元系における動的エキシトンの極限時空間計測
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic Exciton: Emerging Science and Innovation |
Project/Area Number |
23H03979
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
木村 謙介 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70856773)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | THz-STM発光分光法 / 動的エキシトン / 単一分子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドナー・アクセプター(DA)分子系において形成されるエキシトンを高い空間および時間分解能で調べることは、動的エキシトンの学理構築に向けた重要な課題である。本研究では二次元平面上にモデルDA分子系を作成し、単一の分子を可視化することが可能な走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた時間分解発光測定手法で局所光学分光を行うことで、従来の分光手法では実現不可能な高い時空間分解能でのエキシトンダイナミクスの計測に挑戦している。 前期の公募研究では、NaCl超薄膜上にDA分子を横並びで配置させて新規な発光現象を観測した。一方で、横並びのDA分子配置の場合、π電子系の相互作用が小さいことから実験が難しいことが分かった。そのため、分子膜構造を導入し、その上に相方の分子を吸着させることで、π電子系が重なり合いDA相互作用が強く働くモデルDA分子系の作成に取り組んでいる。2023年度の研究では、A分子としてフラーレン(C60)分子膜を作成した。新規な蒸着チャンバーを立ち上げて試料準備を行うことで、分子膜作成の最適化を行い、STM観測および発光信号の検出に成功した。 また、前期の公募研究ではSTMとテラヘルツ(THz)領域の超短パルス光源を組み合わせた時間分解発光測定手法(THz-光STM)の開発にも取り組んできた。このTHz-光STM手法をC60分子膜に適用し、C60分子膜からの発光信号を取得することにも成功している。単一光子アバランシェフォトダイオードと時間-電圧変換器を組み合わせた時間分解発光測定を十分行えほどの発光強度が得られていることから、原子スケールでの超高速発光測定が可能であると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、新規な蒸着チャンバーを立ち上げて試料準備を最適化し、DAモデル分子系を作成するための基板となる分子膜作成を目標としていた。先行研究でSTM発光の報告例があった、NaCl上に成長したC60分子膜の作成に成功し、STM観測および、STM発光、THz-STM発光計測を実現できたことから、十分な進捗状況であると考えている。 実験を進める中でNaCl上に成長したC60分子膜は、NaClの膜厚およびC60分子膜自体の膜厚を最適化しなければ、C60にトンネル電流により励起してもすぐに失活し、発光が得られないことが判明した。そのため、様々な蒸着条件を検討し試したため、当初想定していたよりも試料作成に時間がかかり、計画以上の進捗を生み出す余力はなかったことから上のような評価とした。A分子膜の作成は可能になり、D分子は代表者が前期公募研究でも使用したフタロシアニン分子を用いる予定であることから、スムーズに研究が進捗していくと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的および2023年度に得られた予期していなかった結果に基づき、以下の3項目を実施する。 1つ目として、C60分子膜の詳細なSTM発光測定を実施する。C60分子膜の最表面を詳細にSTM観測行うことで、分子ごとにコントラストが異なることを可視化した。これはC60分子の配向の違いに由来するものであると考えられ、STM発光スペクトルにも位置依存性が観られた。現状では、配向の種類と発光スペクトルを対応付けられていないため、詳細なSTM発光測定による解析を進める。 2つ目として、C60分子膜上にD分子としてフタロシアニン分子を吸着させ、DAモデル分子系を作成する。最表面のC60が様々な分子配向を取ることから、DA分子系も種々の配向をとり様々なエネルギーを取り得ると期待される。単一分子スケールでDA分子系の配向とエキシトンのエネルギーを結びつけ、さらに量子化学計算と組み合わせることで、動的エキシトンの学理構築に寄与できるように取り組む。 3つ目として、THz-光STMを用いた時間分解発光測定を実施する。C60分子膜からのTHz-STM発光測定は既に実現しており、構築を終えている時間分解発光検出システムを用いることで、世界で初めてのピコ秒の時間分解能でのSTM発光検出に挑戦し、エキシトンのダイナミクスを極限時空間分解能で観測する。
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