2023 Fiscal Year Annual Research Report
物質と細胞膜との弱い相互作用の機序解明とパラメーター化
Publicly Offered Research
Project Area | Biophysical Chemistry for Material Symbiosis |
Project/Area Number |
23H04078
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
森本 展行 島根大学, 学術研究院機能強化推進学系, 教授 (00313263)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スルホベタインポリマー / 細胞膜透過 / リポソーム / 蛍光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内部への物質導入は、たとえ膜透過経路でも細胞表層との相互作用なしには不可能である。本研究では、膜透過性を示すスルホベタインポリマーを中心としたバイオイナートポリマーと細胞膜、また細胞膜を構成するリン脂質二分子膜との間の相互作用を数値化し相関性を抽出することで、次世代の薬物ナノキャリア創製のための物質-細胞間における弱い相互作用の理解を目指している。 本年度は主に巨大単分子膜リポソーム(GUV)内へのスルホベタインポリマー移行性について共焦点レーザー顕微鏡による経時的な膜透過挙動観察から知見を得た。中でも親水性末端を有するポリマーやPEGを微量含有したコポリマーにおいて優れた挙動、すなわち迅速で移行量の多い透過を示すことを明らかとした。さらにリポソームのサイズが比較的小さい(< 1 マイクロメートル)場合において、またGUV中のコレステロール含量が多いほど早く外部環境よりも濃縮されて移行しえることが確認できた。一方でリン脂質の組成変化に基づく膜流動性や膜相分離構造は顕著な変化は認められていない。 今後、スルホベタインポリマーとは異なるツビッターイオン構造をもったポリマーとの比較や温度のパラメーターを導入して知見を深めるとともに、解析するGUV数を増加させることでGUV組成、サイズ、ポリマー構造の移行速度・量に与える効果について定量化を試みる。ポリマーの親水性度やリポソームのキャラクタリゼーションを加えることで、GUV膜透過性に対するパラメーターの抽出・多元系相図を作成し、生細胞での挙動との比較から弱い相互作用の解明を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
巨大単分子膜リポソーム(GUV)内へのスルホベタインポリマー移行性について主に知見を増やしている。重合ω末端にフルオレセイン修飾したスルホベタインポリマーを、(a) 異なるモノマー構造、(b) 異なる重合α末端、(c)共重合PEGメタクリレートユニットの有無、となるよう分類してそれぞれ合成した。界面透過法を用いたGUVの調製技術を習得し、DOPC:DPPC:コレステロール2:2:1からなる脂質組成を中心に実験を行った。このGUV中へのスルホベタインポリマーの膜透過挙動について経時的に観察を行った。その結果より、いずれのスルホベタインポリマーにおいても外部からのポリマー添加によって10分程度のタイムスケールで内部への移行が平衡化する膜透過挙動が確認された。中でも親水性末端を有するポリマーやPEGを含有したコポリマーにおいて優れた挙動、すなわち迅速で移行量の多い透過性を示すことを明らかとした。さらにリポソームのサイズが比較的小さい(< 1 マイクロメートル)場合において、またGUV中のコレステロール含量が多いほど早く外部環境よりも濃縮されて移行しえることが確認できた。一方でリン脂質の組成変化に基づく膜流動性や膜相分離構造は観察温度 (25℃) では顕著な変化は認められなかった。一方で生細胞に対する知見も蓄積しつつある。37℃や25℃では、疎水性の重合α末端を有する場合において親水性末端と比較しておよそ1/10程度の細胞内移行能しか示さないが、4℃の低温環境にて細胞内移行能を評価すると、興味深いことにその移行能は著しく向上し、逆に末端の効果はわずかなものとなることを明らかとした。
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Strategy for Future Research Activity |
スルホベタインポリマーのリポソーム内への移行挙動解析において、異なるツビッターイオン構造をもったポリマーとの比較や温度のパラメーターを導入するとともに、解析するGUVの数を増加させることでGUV組成、サイズ、ポリマー構造に対する移行速度や量に与える効果について定量化を試みる。ポリマーのGUV内移行挙動を生細胞内移行との相関性について、速度・量に加えてエンドサイトーシスの寄与についてその詳細経路に対する阻害剤添加効果の観点からも精査していく。 またリポソームのサイズ制御を試み、表面電位や蛍光偏光解消法による膜流動性解析とともにスルホベタインモノマーおよびポリマー末端の水‐オクタノール分配係数を計算し、これらの結果をGUV透過性と併せて関連するパラメーターの抽出・多元系相図の作成することで弱い相互作用の解明を試みていく。
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