2023 Fiscal Year Annual Research Report
粒子懸濁液の散乱透視:特異挙動の理解と計測手法基礎の確立
Publicly Offered Research
Project Area | Comprehensive understanding of scattering and fluctuated fields and science of clairvoyance |
Project/Area Number |
23H04134
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
桂木 洋光 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (30346853)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 懸濁液 / 粒子計測 / 力学特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体粒子濃厚懸濁液の光学的観察に必要な実験系の構築とテストデータの取得に主に取り組んだ.OCT(光干渉断層像)法とRIM(屈折率マッチング)法について比較検討を行い,OCT法の適用が注目する現象の計測にはより適していると判断し,OCT計測を集中的に行った.水に片栗粉もしくはカオリン粒子を濃厚に懸濁させた液中粒子のOCT計測を試み,粒径が20 μm程度の片栗粉は粒子の像を得ることが可能であることを確認した.一方で,粒径が5 μm程度のカオリン粒子は,本研究で用いたOCT計測系の分解能では,粒子像を得られない(スペックルパターンとなる)ことがわかった.しかし,片栗粉,カオリン両方の粒子懸濁液における粒子群の沈殿の様子については,(粒子像がとらえらえるか否かにかかわらず)定量的に解析が可能であることが分かった.沈降速度解析より,特に片栗粉濃厚懸濁液では沈降速度がストークス沈降の予想に比べて著しく遅くなることが明らかになった.この沈降速度の挙動が,片栗粉濃厚懸濁液の得意なレオロジー特性とどのように関係するかについて,今後さらなる検討が必要となる. 片栗粉濃厚懸濁液に固体球を衝突させた際の応答についてもOCT法での計測を試みた.しかし,本研究で用いたOCT計測系の時間分解能では,衝突のような時間スケールの短い現象の定量化は難しいことが分かった.この結果は,今後は,粒子沈降のような比較的長い時間スケールの現象の解析に集中する方が良いことを示唆している.すなわち,今年度は実験系の構築からテスト計測を経て今後の課題のあぶり出しまでを行うことに成功したと言える. また,粒子配置構造の内部可視化の手法として2次元での非接触粒子系(磁石粒子系)を用いた粒子配置計測・解析の研究にも取り組んだ.その結果,サイズの異なる粒子の混合系でどのように非一様性が発達するかについて,定量的に明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主に光学的手法により粒子懸濁液の内部構造を観察する手法の確立に重点を置いた今年度の研究において,OCT計測系を導入して,片栗粉とカオリンの粒子濃厚懸濁液の計測を行った.粒子径を変化させることによりOCT計測で得られる画像の性質等は異なるものの,どちらの場合でも,粒子群の運動の様子を概ね捉えることが可能であることを明らかにした.一方で,具体的に計測を行うことで,現在用いているOCT計測系による粒子懸濁液観察の限界等についても実験的に確認することができた.特に,時間分解能の限界は,注目する懸濁液の力学特性解析において重要な限界となりえる.ただし,粒子沈降や懸濁液の乾燥による亀裂生成・進展,ダスト力学特性などの当初計画では想定していなかった新しい実験のセットアップなども,本研究の試行錯誤の中で見出し,一定の成果を得ることができた.RIM計測については,片栗粉やカオリンのような粒子径のスケールで実現することが必ずしも簡単ではなく,大きな粒子スケールで実験を行っても,粒子濃厚懸濁液に特異な力学特性が発現されない可能性が高いと判断し,本研究での実験実施の優先順位を下げることとした. また,関連する研究として,2次元マクロ非接触粒子系(磁石粒子系)を用いた粒子配置構造の定量解析手法の確立にも注力し,ボロノイ分割法によるセルの面積分布のモーメント解析などの手法が,(比較的粒子数の少ない系においても)安定して解析を行うことができる手法であることなどを見出した.また,繊維ダストの力学特性,液滴の粉体層への衝突によるスプラッシュなどの現象についても研究に取り組み,当初想定していた具体的研究より広い範囲での研究を展開できていると言える. 以上のように,当初計画に比べて予想以上に進展している項目,検討の結果実施の優先順位を落とした項目などがあり,全体としてはおおむね順調に進展している.
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に構築し,テストを行ったOCT計測系を用いた実験等を行う.片栗粉濃厚懸濁液の力学的特徴づけを目指し,懸濁液中での粒子沈降速度の解析,懸濁液の乾燥による亀裂の生成と発展などに特に注目する.懸濁液中の粒子沈降については,系統的な実験と解析を予定している.懸濁液の乾燥による亀裂の発生とその進展についても,系統的データを取得し,これまで計測が困難であった乾燥亀裂の進展メカニクスに対して意義のあるデータを取得したいと考えている.その他にも,片栗粉濃厚懸濁液に気流を衝突させた場合に起こる現象の解析にも取り組みたい.こちらは,片栗粉濃厚懸濁液を用いた新規力学特性計測実験について様々な検討や予備実験を行うなかで見出した実験セットアップである.この新たなセットアップにより,実験開始前は想定していなかった新規現象などを既に発見しており,その特徴づけ等について今年度さらに検討を進めていきたい.さらに,カオリンのような比較的粒子径の細かい粒子の濃厚懸濁液では粒子像の分解ができないことが,前年度までのテスト計測で明らかになっている.しかし,そのような場合でも粒子群の運動等について一定の情報を得ることが可能であり,そのような方法についても検討を進める.必要に応じてOCT計測を専門とする研究グループとも議論の場などを持ち,多角的に粒子濃厚懸濁液の物理挙動の解明に取り組みたい. 広い意味で関連する「非接触粒子系」や「液滴衝突・分裂」などの研究についても,これまでに引き続き解析等を中心に取り組む.また,これまでに得られた成果,今後得られる成果等について,学会や論文等による発表についても積極的に取り組む.
|