2023 Fiscal Year Annual Research Report
経路列挙とクラスタリングによる化学反応経路カタログの作成
Publicly Offered Research
Project Area | Creation and Organization of Innovative Algorithmic Foundations for Leading Social Innovations |
Project/Area Number |
23H04384
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 佳奈美 京都大学, 工学研究科, 助教 (70974377)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 化学反応ネットワーク / 経路列挙 / 化学反応 / 理論解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ある化学反応を理解するためには、有利に進行する主反応だけでなく、迂回路や副反応も含めたすべての反応過程を考慮することが重要である。本研究では、分子構造とそれをつなぐ経路から成る化学反応のネットワークから、これらの経路情報を列挙・解析することで反応全体の描像を理解することを目指す。本年度は、小規模なネットワークを構築し、このネットワークを利用して解析手法の検討を行った。具体的にはまず、反応経路自動探索(GRRM)プログラムを用いて水性ガスシフト反応の反応経路探索を行い、10の安定構造とそれをつなぐ12の遷移状態を得た。そして、得られた安定構造をノード、遷移状態をエッジとする反応経路ネットワークを作成した。小さいネットワークであるにも関わらず、各経路において同じ構造は一度しか経由しないという制約のもとで全二構造間をつなぐ経路を列挙したところ、418もの経路が得られた。 次に、適切な反応経路長の定義について検討した。ここで経路長は、化学的に適切でありながら解析が容易であるものが望ましいと考えられる。そこで本研究では、安定構造(始点)から別の安定構造(終点)への反応時間を、ある反応素過程の進みやすさと対応するエッジの重みの和として定義した。エッジの重みについては、素過程の反応障壁や速度定数など複数の指標を考案し、比較した。また、得られた各経路を中規模までの化学反応ネットワークへ適用可能な速度論解析手法による解析結果と比較し、最短経路などが対応することを確かめた。 今後は本手法を拡張し、より複雑なネットワークへの適用を進める。同時に、定義した反応経路長を考慮し反応経路カタログの作成を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に、化学反応ネットワークに対する経路列挙手法の開発と実装に取り組んだ。ネットワークに対する経路列挙については既にさまざまな手法が知られている。しかし、化学反応ネットワークへ経路列挙を適用した例は限られているうえ、得られた反応過程の化学的知見での解釈は未だ不足している。ここで本研究では、得られた多数の経路から、どの経路が化学的により重要であるか判断するために、経路長を考慮した。特に、反応にかかる時間が短いほど進行しやすいとの観点から、反応時間に対応する反応経路長を用いた。容易に検証可能な小規模ネットワークに対して、考案した複数の指標を比較検討した結果、単純かつ化学的にある程度適切な指標を見出した。そして、求めた指標を利用し二つの場合について検討を行った。まず、指定した始点(反応物)・終点(生成物)間の経路をすべて求め、反応経路ネットワークで取り得る迂回路について議論した。また、ある始点から始点以外の各ノードを終点として得た最短経路を反応経路長順に並べ、副反応について議論した。本手法で用いる経路長の算出方法は単純であるので、今後複雑ネットワークにもそのまま適用可能である。以上から、おおむね当初計画通りの進捗状況であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、より複雑なネットワークへの適用と可視化手法の検討を進める。これまでに開発した解析手法は、基本的には複雑ネットワークへもそのまま適用可能である。炭化水素分子の異性化反応など、いくつかの化学反応ネットワークへの適用を予定している。ただし、経路数が膨大になることが予想されるため、経路長の順序付けを行うだけでは不十分であり、多様な経路を効率良く得るための工夫が必要である。そこで、当初計画通り経路のクラスタリングなどを行う。クラスタリングから、経路数を適切に削減し、反応制御や反応設計に役立てられるような多様な経路を化学反応ネットワークから提示することを目指す。さらに、得られた経路を化学者が解釈しやすいよう構造変化やエネルギー変化を出力する可視化方法の整備を行う。
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