2023 Fiscal Year Annual Research Report
無脊椎動物免疫センサーTollによる自己免疫応答の分子機構と生理機能
Publicly Offered Research
Project Area | Reevaluation of self recognition by immune system to decipher its physiological advantages and pathological risk |
Project/Area Number |
23H04766
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 正幸 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (50202338)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / Toll / ネクローシス / 自然免疫 / 遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
Tollはショウジョウバエの自然免疫応答に関わる受容体で、ヒト自然免疫受容体TLRに先立って見出された。TLRは非感染時に内因性リガンドによって直接活性化されるが、Tollは感染時には体液でのセリンプロテアーゼカスケードが発動し、リガンドSpatzle(Spz)を切断し成熟させることによって活性化される。感染を伴わないネクローシス時においてもTollが活性化する現象を見出したが非感染時のToll制御システムは未解明であった。そこで、まず初めに非感染性のネクローシスを伴う組織傷害に応答したToll経路の活性化にSpzとその切断が必要であるかを、非切断型のspz変異体をゲノム編集によって作出し検討した。非切断型のspz変異体では、ネクローシスに応答したToll活性化が抑制されたため、感染時と同様にSpzの切断がToll活性化に必要であることが示された。そこで、ネクローシスに応じたSpz活性化に至るセリンプロテアーゼカスケードの検討を行い、遺伝子重複によって作られ隣接してゲノムに存在するPersephone (Psh)とHayanの両方がSpz切断の上流に位置することを明らかにした。さらにPshはネクローシスで生じる活性酸素によっって活性化されることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Spzの切断に至るセリンプロテアーゼカスケードの検討を行った。Persephone (Psh)は遺伝子重複によってHayanと隣接してゲノムに存在し、両者は放線菌やカンジダ属真菌感染において冗長的に働くToll経路の活性化に関わるセリンプロテアーゼである。HayanとPshそれぞれの変異体はネクローシスによるTollの活性化は抑制されなかったが、両方を欠損する変異体ではネクローシスに応答したToll活性化が抑制された。よって、これら近縁のセリンプロテアーゼが共にネクローシス時のToll活性化に必要であった。感染時にはセリンプロテアーゼModSPがHayan/Pshの上流で活性化されるが、ネクローシス時にModSPは必要ではなかった。このことから、Hayan/Pshがネクローシスを伴う組織傷害をModSP非依存的に活性化し、Spz切断を引き起こすことが示唆された。先行研究で、幼虫表皮の傷害部位で産生される過酸化水素がToll経路の活性化を誘導することが報告されていた。そこでSpzとPshをショウジョウバエの培養細胞で過剰発現し、培養液に過酸化水素を添加したところ、過酸化水素に依存して細胞内でSpzの切断が促進さた。ネクローシスを起こした翅上皮細胞では活性酸素種が認められた。よって、これらの結果は、Pshが過酸化水素の下流で活性化し、Spz切断カスケードを誘導する可能性を示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
ネクローシスを起こした翅で活性酸素種の産生が観察されたため、この活性酸素種がToll活性化に関わるのかを遺伝学的に検討している。過酸化水素の消去に働く酵素であるカタラーゼをアポトーシス不全個体の全身で過剰発現したところTollの活性化が減弱する傾向がみられた。これらの結果から、アポトーシス不全によるネクローシスを有する個体では、ネクローシス細胞で過酸化水素が産生され、それに応答したPshの活性化を起点として、Spz切断とToll経路の活性化が誘導される可能性が示唆された。今年度はネクローシス時のPsh/Hayanの活性化機構を遺伝生化学的に調べる。自然免疫応答は個体差の大きな生理的応答である。また、Tollの活性化と同時にその抑制も重要である。免疫応答の個体差や、Toll活性化制御機構をゲノムワイドに探索する目的でGWAS(Genome Wide Association Study)解析を導入する。ショウジョウバエは系統化された異なる遺伝的背景を持つ200もの野生型系統(Drosophila Genetic Reference Panel:DGRP)が整備され、個体レベルでの表現度制御機能をGWAS解析できるという大きな優位性を持つ。Toll活性化制御に関わる遺伝子のスクリーニングにはDGRP系統を用いたGWA mappingの手法を取り入れて行う。
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