2023 Fiscal Year Annual Research Report
Impacts of cyclonic eddies generated by the Kuroshio flowing closely to the coast on the nutrient supply and low tropic level ecosystem
Publicly Offered Research
Project Area | Macro coastal oceanography: integrated simulation for the material dynamics from the land through the open ocean |
Project/Area Number |
23H04818
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
長井 健容 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (90452044)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 黒潮 / 低気圧性渦 / 低渦位 / 慣性不安定 / 乱流混合 / 栄養塩 / 湧昇 / 水平攪拌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、黒潮が日本南岸の岸に接近する際に生じる、低気圧性渦に伴う混合や湧昇が栄養塩供給や低次生態系応答に及ぼす影響に関する調査を現場観測と数値実験を用いて実施している。これまでの現場観測の結果、九州南方では屋久島で生成された低気圧性渦が、栄養塩湧昇を示唆する硝酸塩濃度の上に凸状構造を形成することが明らかとなった。これらの低気圧性渦はサブメソスケールの規模で発生している。これらの渦に伴う栄養塩の湧昇フラックスを定量するために解像度700mの高解像度数値シミュレーションを用いて、屋久島周辺の渦を再現したところ、渦周辺では正味で10 mmol m-2 day-1の湧昇フラックスが平均的に生じることがわかった。範囲を九州南方に限らず実施した解像度2kmの数値実験の結果、これらの九州南方の低気圧性渦は、徐々に大きくなりながら、九州東方を舐めるように下流方向に伝播する様子が示された。その際、モデル中の渦位が、低気圧性渦が岸と接する渦の北側で低下し、頻繁に負の値を取ることがわかった。同様に、黒潮が沿岸域に接近する際には、黒潮と岸の間に低気圧性の循環場が形成され、その北側の岸に接する海域では、負の渦位が生成されていた。数値モデル中の深度100mにおける、拡散係数や硝酸塩拡散フラックスを、渦位と相対渦度の関数として水深1000m以浅の海域で平均したところ、拡散係数は渦位が負になる領域で大きくなり、硝酸塩拡散フラックスを大きくしていることがわかった。一方で、低気圧性渦度側で硝酸塩拡散フラックスはより大きく、低気圧性渦によって持ち上がった栄養塩躍層で、硝酸塩の鉛直濃度勾配が大きくなることで大きなフラックスを生成していることがわかった。一方、生成された負の渦位を持つ水は、流れによって沿岸から離れると、亜表層でサブメソスケールの高気圧性渦を生成することがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、黒潮が日本南岸の岸に接近する際に生じる、低気圧性渦に伴う混合や湧昇が栄養塩供給や低次生態系応答に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。その目的の一つである低気圧性渦による栄養塩湧昇の定量に関しては、複数の現場観測によって、これまで観測で捉えられていなかったサブメソスケールの栄養塩湧昇構造を初めて捉えることに成功した。これらの結果は、私の博士後期課程の学生が論文としてまとめ現在投稿中である。さらに、水平解像度2kmのモデルを用いた数値実験の結果、負の渦位が生成され易い海域が特定された。それらの海域でどのように負の渦位が生成されるかを詳しく調査した結果、黒潮と岸の間に存在する低気圧性循環場、あるいは低気圧性渦が岸沿いに岸を右に見る方向の流れを生成し、この流れが岸で負の渦位を生成することがわかった。また負の渦位は、モデル中の大きな拡散係数と関連しており、混合に寄与することを示唆する。さらに負の渦位が岸から剥離すると、亜表層でサブメソスケールの高気圧性渦を生成し、それが黒潮などの流れによって移流される様子が再現された。これらの結果は、新規性が高く、2024年度の国際学会などで積極的に発表する予定である。よって本研究は、概ね順調に推移している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、2023年6月に実施したかごしま丸航海や、2023年7月に実施した新青丸航海で、中之島、口之島、諏訪之瀬島の黒潮の下流側で観測した高解像度断面観測データを詳細に解析し、海域に亜表層の高気圧性渦が生成されていないか密度やADCPによる流れのデータを元に確認する。もし亜表層の高気圧性渦が生成されていれば硝酸塩濃度や乱流の強度はどの程度だったかを定量する。さらに、2024年12月から2025年1月には、九州南方から東方海域における、低気圧性渦の通過に伴う負の渦位生成の実態調査を、新青丸を用いて実施する。これらのデータに加え、九州南方や、四国沖、紀伊半島沖での数値実験をより高解像度で実施して、黒潮流域全体で、低気圧性渦が栄養塩湧昇・鉛直混合フラックスに及ぼす影響を定量する。また、黒潮などに移流された亜表層の高気圧性渦が、変形して消滅する差にはどのような混合現象が発生しているかを明らかにする。結果は、国内と国際学会で発表する。
|