2012 Fiscal Year Annual Research Report
カルト被害の救済と回復-レジリアンスの視角から
Publicly Offered Research
Project Area | Law and Human Behavior |
Project/Area Number |
24101501
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
櫻井 義秀 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50196135)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | カルト / レジリアンス / 宗教社会学 / 臨床心理 / 被害者支援 |
Research Abstract |
2012年に行った主な研究活動は次の二つである。 ①2012年5月22日に北海道大学で開催された日本学生相談学会第30回大会のシンポジウム「大学のカルト対策」を企画し、カルト問題のフロンティア・シリーズ第1号として北海道大学出版会から刊行したことである。書籍の内容を簡単に紹介したい。 第一部「日本のカルト問題」において、カルト問題にかかわる学術的な問題には宗教社会学者(櫻井義秀)が、キャンパス内の勧誘実態と対応については宗教学者(川島堅二)が、対応の法律的な根拠の問題には弁護士(久保内浩嗣)が、最近のカルトの勧誘手法についてはカルト・カウンセラー(瓜生崇)が、そして、統一教会を相手に25年間の訴訟を戦ってきた弁護士(郷路征記)が、カルト問題の核心を解説している。第二部は日本学生相談学会第30回シンポジウム「カルト問題――学生相談との関連」を収録しており、ここでは、1980年代以降のカルト問題の解説を宗教社会学者(櫻井義秀)が、大学におけるカルト・カウンセリングの問題にはカルト問題に詳しいカウンセラー(パスカル・ズィヴィー)や臨床心理士(平野学)が、そして、大学によるカルト対策は学生相談に実績のある教員(大和谷厚、大畑昇)がケースに基づいて具体的に対策を述べる。 ②日本脱カルト協会、全国霊感商法対策弁護士会の会員になっている臨床心理士に呼びかけ、カルト・レジリアンス研究会を立ち上げた。研究準備会は2回、本研究会は年度内、10月28日と2013年2月16日の2回を開催し、プロジェクトをスタートさせた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
カルトの被害をなくすには大学での対策が最も肝心であり、その方法はカルトに関する情報を新入生の段階でしっかり伝えていくこと、予防が最も有効であることがわかっている。しかし、どれほど大学が予防に役立つ情報を学生に提供したとしても、勧誘され入信してしまう学生はいる。そうした学生が学内で勧誘活動を展開した際に大学はどう対応したらよいのか、そうした課題も明確になってきた。2012年日本学生相談学会シンポジウム「カルト問題――学生相談との関連」では、学生相談業務の一部にカルト被害学生への対応を明確に位置づけたものである。こうした学生への支援は学内のカウンセラーだけではなく、担任教員や指導教員、学生支援窓口の事務職員、場合によっては学外の弁護士やカルト問題に詳しいカウンセラーとも連携しながら組織的に対応することで実効性を高めていくことができる。 このシンポジウムの成果と、カルトへの対応を教育、法律、臨床心理の3つの角度から基礎づける論考を、大学で学生支援を担当する教員、弁護士、学生相談のカウンセラーなどから論考を集め、『大学のカルト対策』カルト問題のフロンティア・シリーズ第1号として北海道大学出版会から刊行したことである。 幸いにも、本書は中外日報(2012/12/13)、仏教タイムス(2013/1/10)、朝日新聞の道内版の書籍紹介欄(2013/1/14)で書評が掲載され、朝日新聞では、「『カルト的思考は学問の対極にある』との指摘は説得的で、問題の根深さと関係者の真剣な取り組みがよくわかる。より多くの大学関係者や学生に手にとって欲しい本だ」と好感を持って受けとめられた。また、刊行後4ヶ月で増刷しているので、社会的ニーズにも応えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、カルト・レジリアンス研究会を2ヶ月に1度開催し、研究成果を蓄積すると共に、カルト問題のフロンティア・シリーズ第2号として、今年の研究成果を来年度に『カルトからの回復』として刊行できるように鋭意研究を進めていく予定である。 もう一つの実践として、昨年度刊行した『大学のカルト対策』北海道大学出版会をテキストとした大学の学生支援に携わる教職員、臨床心理士・カウンセラー等を対象とした実務家研修にも力を入れる予定である。「大学のカルト対策-被害者への具体的な援助と方策」を2013年4月27日、北海道大学において予定している。
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