2012 Fiscal Year Annual Research Report
生理活性分子の分子設計のための理論化学的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Biology using bioactive natural products as specific ligands: identification of molecular targets and regulation of bioactivity |
Project/Area Number |
24102520
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
相田 美砂子 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90175159)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 生理活性 / 非経験的分子軌道法 / 水和 / モンテカルロ法 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
天然物リガンドに関しての構造や反応性等の情報収集を開始した。非常に多種類のものが存在するので、まず、構造に関する分類として次の2種類に分けることとした。(1) 環境の変化により、構造があまり変化しないと予想されるもの、および、 (2) 環境により、構造が大きく変化することが予想されるものである。それぞれの代表として、いくつか具体例をとりあげ、孤立状態における計算と、水溶液中における計算を開始した。 (1)の代表例として、トリメチルアミンオキシド(TMA)および、アダマンタン誘導体をとりあげた。TMAは、浸透圧調整物質として良く知られているが、蛋白質のフォールディングに影響を与えることも知られている。TMAの構造が水和によってどのように変わるのか、またTMAがまわりの水分子にどのような影響を与えるのか、について、非経験的分子軌道法と分子力場法を組み合わせた計算を進めた。アダマンタンは、薬剤の体内への取り込みやすさを調節するための置換基として用いられる。非常に固い骨格をもっているが、どのような仕組みで脂溶性・水溶性の調整に関わるのかについて明らかにするための計算を開始した。 (2)の代表例として、グリシンとグルコースをとりあげた。グリシンは、アミノ酸のうちで最も単純なものである。中性分子の場合でも、末端が-NH2と-COOHである状態と、それらが-NH3(+)と-COO(-)となり、双性イオンの状態とがありうる。それらの、水溶液中における安定構造を計算で求めたところ、とくに双性イオンの構造が、孤立状態とは大きく異なることを見いだした。グルコースは、さまざまな安定構造があるが、孤立状態においての安定な構造と、水溶液において見いだされる構造が異なることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
天然物リガンドも受容体も、環境により構造が変化し、なおかつ特異的に相互作用がおこると考えられる。実験的手法により得られる情報の多くは、リガンドと受容体の結合状態における情報である。本研究は、天然物リガンドの、さまざまな環境における安定構造、構造変化のしやすさ、平均構造を量子化学計算により求め、これらの結果に基づき、ある活性をもつ分子を設計するための合理的指針を提案することを目的としている。今年度は、いくつかの特徴的なリガンドをとりあげ、孤立状態におけるリガンドの最安定構造、および、水の中におけるリガンドの構造、さらに、リガンドのまわりの水和構造を得るための理論化学計算を実行した。計算には、主として非経験的分子軌道法を用い、必要に応じ、QM/MM法(溶質および重要な溶媒分子をQMとして、その他の溶媒分子をMMとして扱う手法)を用いた。また、さまざまな環境における構造の時間変化や平均構造、また自由エネルギー変化を求めるために、非経験的分子軌道法やQM/MM法と分子動力学法やモンテカルロ法を組み合わせた計算手法を用いた。 今年度の計算の結果として、水和という観点からみると、リガンドは次の2種に分けることができることを定量的に示すことができるようになった。一つは、その構造自体は孤立状態と水溶液中で大きく変わらなくても、大きな水和をもたらすものであり、もう一つは、適切な水和構造を形成するためには、リガンドの構造自体が変わらなくてはならないものである。さらに、置換基の導入によって水素結合形成の度合いが異なることが当然予想されるが、親水性の置換基の導入が、必ずしも常に親水性の水素結合の形成につながるとは限らないことを計算で示した。これは、活性予測にとって、非常に重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
天然物リガンドに関しての構造や反応性等の情報をさらに収集する。いくつかの、実際に得られているリガンドを、(1) 環境の変化により、構造があまり変化しない、と予想されるもの、および、 (2) 環境により、構造が大きく変化することが予想されるもの、に分類し、それぞれについて、孤立状態におけるリガンドの最安定構造、水溶液中におけるリガンドの構造やIRスペクトル、さらに、リガンドのまわりの水和構造を得るための理論化学計算を実行する。計算には、非経験的分子軌道法を中心として、必要に応じ、QM/MM法(溶質および重要な溶媒分子をQMとして、その他の溶媒分子をMMとして扱う手法)を用いる。QMとして扱う領域を広げたり、また、計算レベルを高くする、等の工夫を加える。また、さまざまな環境における構造の時間変化、IRスペクトルや平均構造を求めるために、非経験的分子軌道法やQM/MM法と分子動力学法やモンテカルロ法を組み合わせた計算手法を用いる。また、構造変化に対応する自由エネルギー変化を計算で求める。 これらの結果から、特異的相互作用の予測に結びつく特徴を、リガンドの孤立状態の構造から引き出すことを試みる。また、活性様式を予測する手法の構築を試みる。さらに、得られた定量的知見を実験研究者にフィードバックする。
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Research Products
(14 results)