2012 Fiscal Year Annual Research Report
ゲージボソン3点結合の精密測定による新物理探索とそれを可能にするトリガーの研究
Publicly Offered Research
Project Area | Particles Physics opening up the Tera-scale horizon using LHC |
Project/Area Number |
24104504
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石野 雅也 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30334238)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 素粒子実験 / テラケール / トリガー / ゲージボソン / 電弱対称性の破れ / 加速器 |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子標準模型は現在までにえられたあらゆる実験結果を予言するという点で大成功をおさめている一方、ゲージ階層性問題など決定的な問題点も含んでいる。それを解決するような新しいモデル、すなわち電弱対称性の破れのスケールの少し上のテラスケールに、より基礎的な新物理が存在しており、標準模型を包括しつつ問題点を解決するという描像が精力的に研究されている。 本研究ではゲージボソンの3点結合定数を精密測定し、その値が標準模型からズレることを実験的に確定することで新物理の存在をあきらかにする、という方法で研究を進めている。今年度はLHC加速器によってえられた7TeV衝突データ(H23年度の5/fb)と8TeV衝突データ(H24年度前半の13/f b)を使って終状態にWZをふくむプロセスに注目し、3点結合測定の精度を過去最高の10%より良いものに改善しつつある。現在までのところ終状態にWとZを1つずつ含む過程の断面積が20.3pbであることを求めた(統計エラーが4%、系統エラーが6%)。標準理論が予言する断面積は、20.3pbでエラーが4%である。この時点で標準模型からの大きなズレがないことはわかるが、現在、この結果をゲージボソンの3点結合の強さとして解釈しなおして、どの程度までズレがないといえるのかを求める作業を進めている。 新物理モデルが予言する標準模型からのズレの大きさは、0.1%から 0.01%と小さい効果であり、また今後、統計誤差・系統誤差を小さくして計算結果との比較を進めるためにも、より多くのデータが必要になる。このために加速器の輝度を2倍以上に向上させる計画であるが、1衝突あたりの衝突イベント数が増加して複雑な様相となる。この環境でも今までと同様の良質のデータを蓄積するためのミューオントリガーの新しいアルゴリズムを開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度は衝突エネルギー7TeVで5/fb、H24年度は衝突エネルギー8TeVで23/fbと、過去2年間LHC加速器の性能が向上して予定をうわまわる輝度で運転することができたので、予定をうわまわる量の陽子衝突データを得ることができた。また検出器もこの期間、安定して稼働し、終状態にWZボソンを含むイベントを蓄積することができた。 これらのイベントを見過ごさずに記録するためのキーポイントであるミューオントリガーについての工夫、特に運動量閾値を24GeVにたもって、WZ粒子が崩壊した際にあらわれるミューオンを効率よくとらることができたことも、研究が予定通り進んだ理由のひとつである。この研究でとりあつかうWZプロセスは断面積が20pbとかなり小さいため、bクォークをふくんだハドロンの崩壊からえられるミューオンと、WZからのミューオンを的確に区別する方法を導入して、運動量閾値をあげずに・WZ崩壊からのミューオンを減らさずに記録していけたことは、研究の進展にかなり役立った。今後の研究においても重要なポイントである、といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、H24年度末までにアトラス検出器で取得したすべてのデータ(7TeV衝突の5/fb、と8TeV衝突の23/f b)を解析して、終状態にWZをふくむプロセスについてゲージボソンの3点結合測定の精度を現在の10%より良いものに改善する。統計誤差についての改善はもとより、より大きなデータサンプルをもちいた詳細なスタディーにより系統誤差についても今より小さくすることが可能である。これによって、テラスケールでの新物理の存在・非存在に関して過去最高の厳しい制限をかけることができる。 また、この研究をさらに進めていくためにはより多くのWZを終状態に含んだイベントを蓄積していく必要がある。これを実現するため、今後LHC加速器はその輝度を今までよりも数倍上昇させた状況で運転する予定であるが、これは単位時間あたりの信号イベント生成を数倍にするのと同時に、不要なバックグラウンドイベントも今まで以上に多く発生させることを意味する。ATLAS実験では40MHzで発生するイベントのうち400Hzをトリガーして記録することが可能である。つまりWZ過程が発生した後、その崩壊後のミューオンを確実にトリガーしてデータを取り損ねないようにすることが研究を進展させるための鍵である。 本研究の1年めに、H24年度に取得したデータをつかって、WZ崩壊からのミューオンを確実にとらえるアルゴリズムを開発した。具体的にはミューオンの運動量を分析するための磁石の前方に設置している検出器のヒット情報を、現行のトリガー生成検出器の情報に加えて解析し、両方の信号が同時にえられるという条件を課すことで、不要なイベントを30%程度、排除することが可能である、という結論をえた。今年度はこのアルゴリズムを実際の回路として実現して(書き換え可能なFPGA回路上にアルゴリズムを組み込む)、宇宙線イベントを使って性能評価をおこなう。
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Research Products
(11 results)