2012 Fiscal Year Annual Research Report
パラ水素結晶中の分子を使った電子の電気双極子モーメントの探査
Publicly Offered Research
Project Area | Extreme quantum world opened up by atoms -towards establishing comprehensive picture of the universe based on particle physics- |
Project/Area Number |
24104703
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金森 英人 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00204545)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電子の電気双極子モーメント / 超精密分光計測技術 / パラ水素結晶 / 相対論的増強効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
パラ水素結晶中に捕捉した分子を用いた電子の永久電気双極子モーメントの探査 近年、飛躍的に進歩した超精密分光計測技術を基盤技術として、物理学の基本法則をテーブルトップの実験で検証する試みが現実的になっている。特に電子の電気双極子モーメント(eEDM)の測定対象としては、異方性電場を内在する分子系が測定限界値の潜在能力が最も高いと期待されている。我々は分子系が有する本質的な有利性を最大限に享受するために、量子固体パラ水素(p-H2)結晶中に捕捉したラジカル分子の基底電子・振動・回転準位を用いたeEDMの実証実験をおこなう。具体的には1)BiO/p-H2という独自の分子系を標的とし、コヒーレントな長時間観測を可能とする赤外振動遷移をプローブとし、eEDM効果をスペクトルピークの差周波として実時間測定する研究と2)HgH/p-H2を対象とした熱力学的分布の変化を磁場の変動に変換して観測する研究を行った。 また、理論的アプローチとして、BiOおよびHgHのeEDM測定に必要な相対論的エンハンス効果と分子内電場の大きさをDirac-Coulomb方程式を正確に解いて得られた分子軌道を基底関数とするSAC-CI法を用いて高精度の量子化学計算のプログラムを開発に着手した。 本研究ではp-H2結晶中に捕捉したラジカル分子に高電場と高磁場を印加する必要があるので、極低温下で動作するグリッド電極と超伝導磁石を作成しその基本特性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではBiOラジカルを気相で生成する手法の開拓から開始した。初めにBi金属を電極とし、酸素分子をプラズマ放電することで、BiOの生成を試みたが、可視領域の発光分光スペクトルおよび、半導体レーザー分光法を用いても検出することができなかった。次に、Bi金属のレーザーアブレーションと酸素のプラズマ放電を組み合わせたが、スペクトルの検出には至っていない。さらに、Biを電気フィラメントヒーターで加熱し、原子ビームとして酸素プラズマ中に投入したが、期待された発光スペクトルは観測されなかった。このことから、BiOラジカルは寿命が同荷電子配置を有するNOラジカルとは異なり、存在寿命がきわめて短いと推定される。この結果はあらかじめ反応で生成したBiOをp-H2結晶にドープすることがきわめて困難であることを意味する。 もう一方のHgHラジカルの研究の法はHg蒸気をp-H2にドープすることに成功し、さらに水銀ランプの共鳴紫外光を照射することによって、HgHが生成することを赤外振動スペクトルで確認することができた。その量は1ppmを超えるものであるが、副生成物であるHgH2の方が10倍多く生成されてしまうことがわかり、改善が必要であることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
BiOの生成に至らない原因として、今の放電法ではプラズマ温度が高すぎて酸素分子が準安定電子励起状態を通り越して、酸素原子に解離してしまっていることを発光スペクトルから確認している。酸素分子の励起状態を生成するためにプラズマ温度の低いマイクロ波キャビティ放電を導入する。また、長光路光学系を導入することによってレーザー分光の検出感度を上げる。 p-H2結晶中の水銀ランプ照射によるHgHの生成効率は気相に比べてはるかに小さいことが分かった。その原因としてはHg原子の共鳴遷移のマトリクスシフトが考えられる。Hg/pH2の吸収スペクトルを実測し、マトリクスシフトに共鳴する紫外線を波長可変レーザーを用いて励起する。生成物を赤外振動スペクトルでモニターしながら、レーザーの波長を掃引することによって、HgHの生成効率の最適条件を見出す。 十分なHgHが生成法を確立した後、今年度作成したグリッド電極と超伝導コイルにを用いて、結晶に高電場と高磁場を印加し、HgH分子を配向させることができることを確かめる。
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