2012 Fiscal Year Annual Research Report
二重活性化型有機分子触媒を用いるキラル多官能性化合物の合成と応用
Publicly Offered Research
Project Area | Advanced Molecular Transformations by Organocatalysts |
Project/Area Number |
24105518
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
滝澤 忍 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50324851)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 有機分子触媒 / 不斉 / ドミノ反応 / RC反応 / aza-MBH反応 / 酸塩基触媒 / 炭素‐炭素結合形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
キラルテクノロジーの中核技術に位置づけられる不斉触媒合成は、少量のキラル源から大量の光学活性体を供給可能なため、工業プロセスにも利用されている。しかし、その多くは、還元反応のような「官能基変換反応」であり、エナンチオ選択的「炭素-炭素結合生成反応」に関しては、大きく立ち後れている。目的とする分子骨格を少ない工程数とエネルギーで構築するには、酸化や還元のような官能基変換よりも炭素-炭素結合生成の方が有効なケースが多い。しかしながら、現在の合成化学では要求される分子構造が複雑化するほど、その大量供給は困難となっている。
申請者は、酸-塩基型有機分子不斉触媒や光学活性二核バナジウム触媒などの二重活性化型不斉触媒を合成し、高効率で進行するMorita-Baylis-Hillman(MBH)反応や2-ナフトール類のホモカップリング反応等の開発に成功している。これらの触媒による反応促進機構では、触媒を構成する複数の基質活性化部位による協調的な多点制御が重要な役割を担っており、酵素的な作用機序を持つ触媒として数多くの知見を得ている。ところで、ドミノ反応は、一度の操作で複数の連続する反応が進行して生成物が得られる。不安定な反応中間体を単離する必要が無く、使用する試薬や溶媒の量を削減できる等の利点を有する。
そこで、今回、二重活性化型不斉触媒を用いる不斉ドミノ反応を活用する光学活性多置換環状化合物の効率合成を検討した。その結果、基質の活性化に金属を必要としない二重活性化能を有する高活性な酸-塩基型有機分子不斉触媒を、不斉Rauhut-Currier反応に適用したところ、光学活性なα-メチレン-γ-ブチロラクトン骨格を合成することができた。本化合物は、医薬品原料や生物活性天然物によく見られる母格であり、多置換・多官能性キラル化合物群の安全で効率的な合成法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Rauhut-Currier(RC)反応は、ルイス塩基を触媒とするα,β-不飽和カルボニル化合物の二量化反応である。本反応は、多段階であり律速段階に炭素-炭素結合のステップとその次のプロトン移動のステップが関わっているため不斉反応への展開は困難であった。また、二種類のα,β-不飽和カルボニル化合物を用いた場合には、生成物はホモカップリング体とヘテロカップリング体の混合物となることから適用できる基質が限られていた。 我々は、キラル分子に酸性および塩基性官能基を導入した二重活性化型有機分子触媒を用いることで、エノンを求核種とする不斉aza-森田-Baylis-Hillman(aza-MBH)反応、および不斉aza-MBH型ドミノ反応の開発に成功している。 そこで、今回、二重活性化型有機分子触媒によるMBH型反応の開拓として、不斉分子内RC反応を基盤とするα-メチレン-γ-ブチロラクトン骨格の効率合成研究を行った。その結果、バリンから誘導される酸塩基型触媒を用いると効率良く反応が進行し、光学活性なα-メチレン-γ-ブチロラクトンが得られることを見出した。触媒の窒素置換基を精査したところ、トシル基を導入した酸-塩基型触媒を用いた場合に、目的環化体を単離収率99%、光学収率98% eeで得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今回RC反応により合成に成功した、光学活性α-メチレン-γ-ブチロラクトンは、多くの天然薬理活性物質等に見られる部分骨格であり、本反応で容易に得られる生成物は、医薬品合成中間体のキラルビルディングブロックとしての応用が期待できる。今後は、より高活性な多点制御型触媒の開発を目指すと共に、さらに複雑で汎用性の高いキラル多官能性化合物を、二重活性化機構を活用して、簡便かつ高エナンチオ選択的に合成する予定である。
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