2012 Fiscal Year Annual Research Report
有機分子触媒の設計を先導する新しい酸性官能基の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Advanced Molecular Transformations by Organocatalysts |
Project/Area Number |
24105533
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
矢内 光 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (10408685)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 有機化学 / 有機分子触媒 / 炭素酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ビス(トリフリル)メチル(Tf2CH; Tf = CF3SO2)基を有する炭素酸,およびその類縁化合物の効率的な合成手法を開発するともに,それらの有機分子触媒としての性能評価を行うものである.こうした検討により,炭素酸構造を「有機分子触媒を設計する際の新しい酸性官能基」として提案することを目的としている. 既に,フェノールなどの電子豊富アレーンと1,1,3,3-テトラキス(トリフリル)プロパン(以下,テトラスルホンと略記)の反応により,アレーン骨格に炭素酸部位を導入する手法を開発した.本年度は,まず,このテトラスルホンを用いた様々な求核種との反応を検討した.その結果,活性メチレン化合物やケトン,イミドなどの様々な中性求核種と速やかに反応し,対応する炭素酸を収率良く与えることを見出した.特に,マロン酸エステルとの反応で得られた炭素酸のX線結晶構造解析を行ったところ,分子間での二つのC-H…O相互作用が見られ,計算科学的手法によって,軌道間相互作用を含む水素結合様の相互作用であることを明らかにした.また,アニリン類との反応では,カルボアニオン部とアンモニウム部を併せ持つ双性イオンが得られることを明らかにした.この化合物の構造は,NMR分光法および回折結晶学的手法により,詳細に解析することができた.さらに,双性イオンのpKa値(DMSO)は2.4であり,酸触媒として利用しうる値であった.この知見は,双性イオン構造中のアンモニオ基を,有機分子触媒に適用可能な新しい酸性官能基として提案するものである. いくつかの炭素酸および双性イオンについては,実際に,酸触媒として利用も検討した.その結果,ラクトンとケイ素エノラートの反応において,炭素酸触媒を用いるとオレフィン化反応が,双性イオン触媒を用いるとMukaiyamaアルドール反応が効率よく進行することを見い出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,①様々な有機化合物の分子構造に,炭素酸部位を導入していく合成手法の開発,②有機分子触媒の設計に有用な新しい酸性官能基の開発,③炭素酸化合物の物性,構造化学研究を大きな目標としている.「研究実績の概要」において,簡略に述べたとおり,炭素酸構造の導入法としては,テトラスルホンを用いた方法の適用範囲の大幅な拡張に成功した.また,ビス(トリフリル)メタンとアルデヒドとを混合するのみで,容易に得られるビス(トリフリル)アルケンに注目し,これにヒドリド還元剤やGrignard反応剤を作用させることで,所望の炭素酸が容易に得られることを見出した. こうした炭素酸の合成手法の開発のみならず,新たな酸性官能基の開発にも成功している.たとえば,アニリンとテトラスルホンの反応で得られる双性イオンは,窒素原子上に活性水素を備えたアンモニオ基を有し,実際,このタイプの化合物が,ラクトンに対するMukaiyamaアルドール型反応の優れた触媒となることなどを見出している. さらに,炭素酸および双性イオンの物性,構造化学研究については,必要に応じて,詳細に行っており,分子軌道間での明確な相互作用を持つC-H…O水素結合様相互作用を見出したり,先の双性イオンのけるカルボアニオン部位の際立った安定性などについても,解析を加えている. 以上の通り,本研究の目標について,多角的な成果が上がってきており,研究の進展は当初の計画以上であると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度については,本年度の研究成果を踏まえて,強力に推進していく.特に,高分子担体に担持された炭素酸の合成を,現在,鋭意進めているところである. また,炭素酸部位の導入法として,テトラスルホンに代わる,より安価な反応剤の開発も必要と考えられることから,これについても詳細を検討している.
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