2012 Fiscal Year Annual Research Report
η’中間子原子核探索実験によるη’中間子の質量獲得機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Quest on new hadrons with variety of flavors |
Project/Area Number |
24105705
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤岡 宏之 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30513395)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ハドロン物理学 / 中間子原子核 / エータプライム中間子 |
Research Abstract |
ドイツ・重イオン研究所におけるη′中間子原子核の分光実験では、陽子ビームを炭素標的に照射し、反応によって射出される重陽子を核破砕片分離器の下流で測定することで欠損質量分光を行う。一方で、非弾性散乱に起因する陽子が重陽子の100倍程度到達することがシミュレーションにより見積もられており、トリガーレベルで重陽子と陽子を識別するための検出器を導入する必要がある。 そこで、千葉大学で最近開発された1.18-1.19の高屈折率を有するエアロジェルを用いたエアロジェルチェレンコフ検出器の開発を行った。核破砕片分離器に到達する陽子は重陽子よりも速度が大きく、陽子がエアロジェル中を通過した時にのみチェレンコフ光が放射されるため、そのチェレンコフ光を集光した上で光電子増倍管で検出するという仕組みである。シミュレーションにより鏡集光系の最適化を行った結果、陽子が通過した時の平均光電子数は場所依存性を持つが最低でも12.7個となり、十分良い除去能力を持つことが分かった。 シミュレーションの結果をもとに実機を製作し、平成24年11月に重イオン研究所で重陽子ビームを用いたテスト実験を行った。光速の0.944倍と0.843倍の2つの条件で測定を行ったが、これはη′中間子原子核の分光実験における陽子と重陽子の速度にそれぞれ対応している。その結果、速い重陽子を打ち込んだ場合には平均光電子数が22個以上となり、閾値を9光電子としたときの検出効率として99.5%以上を達成することができた。一方、遅い重陽子を打ち込んだ場合には光電子数分布は0個にピークを持つが、9光電子以上になる確率が2-4%と位置依存性を持つことも分かった。陽子については十分な除去能力を有することが確認できたため、屈折率を少し下げたエアロジェルに取り替えるなどの改良を行い、重陽子に対するオーバーキルの確率を下げるための検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツ・重イオン研究所におけるη′中間子原子核の分光実験に必要なエアロジェルチェレンコフ検出器の開発を行い、ビームを用いたテスト実験により概ね目標通りの性能を達成していることを確認した。さらにオーバーキルの確率を減らすための改良にも取り組んでいる。一方で、当初の期待に反してエアロジェルが吸湿性を有することが判明したため、本番に使用するためのエアロジェルの製作にあたっては疎水化の対策を強化することにした。おおむね平成24年度の研究実施計画通りに研究を遂行することができ、当初の研究目的であるη′中間子原子核の分光実験の実現に向けて着実に準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
屈折率を少し減らしたエアロジェルを用いてエアロジェルチェレンコフ検出器の改良を行う。また、検出効率の位置依存性を抑えるため鏡による反射ではなく、乱反射材を用いた集光方式についても検討する。これらの改良を加えたエアロジェルチェレンコフ検出器のテスト実験をドイツのユーリヒ総合研究機構のCOSY加速器施設にて行い、性能の評価を行う。それによりη′中間子原子核の分光実験に使用するエアロジェルチェレンコフ検出器のデザインを決定する。
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