2012 Fiscal Year Annual Research Report
三光子励起自家蛍光寿命イメージングを用いた細胞内環境変化のその場測定
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Science for Nanomedicine |
Project/Area Number |
24107501
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中林 孝和 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (30311195)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 蛍光寿命イメージング / 自家蛍光 / 細胞内pH / 多光子励起 / 蛍光減衰曲線 / FAD / 細胞内環境 / 定量測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,三光子まで行うことができる多光子励起蛍光寿命イメージングシステムを製作し,生体試料を染色することなく,生体内に元から存在する蛍光物質の蛍光(自家蛍光)を用いた細胞計測を目指す。蛍光寿命の値は光退色や光学系に依存しないことから,蛍光強度測定に比べて定量性に優れ,蛍光分子の周囲の環境変化を定量的に求めることができる。本年度は,自家蛍光物質の蛍光寿命を画像化するイメージングシステムを製作し,代表的な自家蛍光成分であるFAD(Flavin adenine dinucleotide)の自家蛍光寿命イメージングを用いて細胞内pHをその場で測定できることを提案した。緩衝溶液中においては,FADの蛍光減衰曲線の形状はpHに対して一定であり,緩衝溶液中ではFADの蛍光寿命はpHに依存しない。しかし,HeLa細胞内では,細胞内pHに応じてFADの蛍光減衰曲線が変化し,細胞内pHの増加に伴い蛍光寿命が減少することがわかった。蛍光寿命の値も細胞内と緩衝溶液中で大きく異なり,細胞内の蛍光寿命の値は,緩衝溶液中の半分以下になっている。細胞内ではFADはタンパク質と相互作用をしたフラビンタンパク質として主に存在しており,観測された細胞中の蛍光寿命の減少および蛍光寿命の細胞内pH依存性は,FADとタンパク質との間の分子間相互作用のpH変化を観測していると考えられる。細胞内での蛍光減衰曲線は4成分の指数関数にて再現され,平均蛍光寿命は,細胞内pHが5.0,7.0,9.0においてそれぞれ1.11 ns,0.84 ns,0.78 nsであった。自家蛍光寿命イメージングにおいても細胞内pHの増加に伴うFADの自家蛍光寿命の減少を観測しており,FADの蛍光寿命と細胞内pHとの間の検量線を作成することによって,FADを用いた無染色でのpHイメージングができることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自家蛍光寿命イメージングについて製作を行い,FADの自家蛍光寿命イメージングを用いた無染色での細胞内pH計測について,査読付学術論文として掲載した。また,自家蛍光寿命イメージングに関する総説を執筆し,さらに,学会発表を複数行っている。分担著書となる図書も複数執筆中である。自家蛍光寿命イメージングの研究は世界で複数のグループで行われているが,知る限りでは,細胞内イオン濃度の無染色でのイメージングは,申請者が所属するグループが初めて行ったものである。自家蛍光寿命を用いて,細胞内パラメーターの定量測定を行っているという点で先端を行っていると考えている。NADHとFADに着目したが,芳香族アミノ酸であるトリプトファンなどへと発展させる必要がある。また,二光子励起だけではなく,三光子励起の自家蛍光寿命イメージング測定を行えるようにシステムの改良を引き続き行わなければならない。他のグループとの共同研究も十分に行うことができず,平成25年度は,共同研究を積極的に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は,一光子励起の自家蛍光寿命イメージングシステムについて製作を行い,補酵素であるFADの自家蛍光寿命を用いた無染色での細胞内pH計測を提案した。また,多光子励起については,共焦点顕微鏡のビームスキャナ部分を多光子励起用のミラーに交換し,二光子励起による自家蛍光寿命イメージング測定を行うことができる。しかし,三光子励起の配置では,蛍光強度が小さくなり,自家蛍光寿命イメージングの測定には至っていない。そこで,画像測定部分について,励起レーザー光を走査するビームスキャナ型から試料を移動するステージスキャナ型に変更し,蛍光の捕集効率を向上させる。必要となるフィルターなどの光学部品類の多くは前年度に購入している。また時間相関単一光子計数法による蛍光減衰曲線測定システムを用いて,細胞内に存在する芳香族アミノ酸であるトリプトファン,チロシン,フェニルアラニンの蛍光減衰曲線の測定を行う。細胞内のpH依存性,酸素濃度依存性,および正常細胞と腫瘍細胞における蛍光寿命の違いなどについて測定を行い,芳香族アミノ酸の自家蛍光寿命を用いた細胞内pHや腫瘍細胞のその場検出について検討する。また積極的に共同研究を行い,機能性色素分子の細胞内の挙動および細胞内環境の定量測定について,蛍光寿命イメージングを用いて検討を行う。
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