2012 Fiscal Year Annual Research Report
分子性導体における低次元揺らぎの織り成す多様なスピン状態の理論的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Frontier of Materials, Life and Elementary Particle Science Explored by Ultra Slow Muon Microscope |
Project/Area Number |
24108511
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
妹尾 仁嗣 独立行政法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 専任研究員 (30415054)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 低次元系 / 理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
多様な電子状態を見せる分子性導体において、それぞれの物質に即したモデルを構築し、強相関電子系における量子スピン自由度を解析するのに適した手法、すなわち基底状態については厳密対角化法、有限温度については量子モンテカルロ法などの数値的手法を組み合わせ、物理量の計算を行い、相図を描くことにより重要なパラメータの同定をすることを目標としている。 本年度の成果として 1) Pd(dmit)2系のスピン間相互作用の評価とスピン電荷状態の解析 金属錯体であるPd(dmit)2分子が構成要素となる電荷移動錯体結晶は、強いダイマー化により常圧でモット絶縁体として振る舞い、対となる1価陽イオンの種類によって同形構造にもかかわらず低温で反強磁性転移、スピン液体挙動、電荷秩序やボンド秩序による非磁性転移、とじつに多様な磁気的振る舞いを見せる。その系統的理解を得る目的のため、陽イオンを替えたそれぞれの物質に対する第一原理計算によるバンド構造に対し、強束縛数値フィッティングを行い分子間および分子ダイマー間の有効遷移積分を系統的に導くことができた。それらの結果、量子スピン系としてみたとき従来議論されていた「正方格子+斜め方向の相互作用」という描像よりも、ある特定の方向が強い「1次元鎖+フラストレートした鎖間結合」という見方が適切であることを提唱した。また、多軌道自由度が絡んだ電荷秩序状態を平均場近似によって調べ、電子相関と電子格子相互作用が絡んだ新規の分子内電荷秩序状態が実現していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多様な電子状態を見せる分子性導体において、それぞれの物質に即したモデルを構築し、強相関電子系における量子スピン自由度を解析するのに適した手法、すなわち基底状態については厳密対角化法、有限温度については量子モンテカルロ法などの数値的手法を組み合わせ、物理量の計算を行い、相図を描くことにより重要なパラメータの同定をすることを目標としている。その中で本年はスピン液体挙動が注目されているPd(dmit)2系についての第一原理計算とモデル計算を組み合わせた手法により、定量的にモデルを構築することができ、また実験で発現しているフラストレートした量子スピン系のメカニズムに迫ることができた。これは研究課題に沿った成果でありまた波及効果も大きいことが期待できるので評価できる。一方で当初具体的なテーマとして掲げた擬1次元系の数値シミュレーションについては十分に成果は上げることはできなかったが、実験研究の進捗とも合わせ国内外の研究者と議論した上で研究実施テーマを柔軟に選定した結果であり、現在まで研究目的はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究実績を受けて、成果を論文として早急にまとめ発表したい。それによりPd(dmit)2系の系統的理解を初めて理論的研究において提示することができ、また一方で凝縮系物理の主要な問題の1つであるスピン液体状態の実現に対する重要な情報を発信することができると期待する。 その上で、分子性スピン液体物質の理論を構築したい。近年複数の分子性導体系において磁気転移が抑制され最低温まで常磁性状態が保たれることが発見されている。これは通常期待されるスピンシングレット形成によるギャップ形成とは異なり、有限の状態密度を示唆している。これらの実験結果を理解するため、物質の磁気的性質をモデル化できる異方的な三角格子上のハイゼンベルグモデルを考慮し、また微少な乱れの影響を調べる。 一方で当初具体的なテーマとして掲げた擬1次元系の数値シミュレーションについては数値計算結果を解析し、実験と比較することによって成果として論文発表したい。
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