2012 Fiscal Year Annual Research Report
不斉材料界面構造の評価と構築
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Programming - Science of Molecular Superstructures for Chemical Devices |
Project/Area Number |
24108701
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
叶 深 北海道大学, 触媒化学研究センター, 准教授 (40250419)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 不斉界面 / キラリティ / 非線形分光 / 生体分子 / 界面構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体分子の殆どはキラルな構造・配置を持ち,そのキラルな分子からなる材料の立体構造及びその表・界面の構造解明は,分子レベルでその機能性の理解において重要であり,機能性触媒やバイオセンサーなどの応用面にも欠かせない.本研究では,このような不斉表面・界面のキラリティの高感度検出及び分子配向の決定を,和周波発生(SFG)分光法,原子間力顕微鏡(AFM),走査型トンネル顕微鏡(STM)などによって実現することを目指す.
これまでにビナフトール分子から不斉界面の構築を試み,薄膜からキラリティの測定に成功した.アキラル信号との干渉により,R体とS体の差分キラルSFGスペクトルが逆向きのピークとして明確に区別できるようになった.チオール結合を含むビナフトール誘導体を新規に合成し,金基板表面に自己組織化単分子膜(SAM)の構築を試みた.Au(111)表面に構築されたビナフトール誘導体のSAMの構造をSTMで観察したところ,秩序的な配列構造が観測されず,非常に乱れた表面構造となったが,キラルSFG信号が未だ得られていなかった.一方,重要な生体分子であるDPPCやDOPCなどのリン脂質分子のキャスト薄膜から,キラリティと表面構造に対応するSFG信号がそれぞれ観測できた.差分キラルSFGスペクトルでは,(L)-DPPCと(D)-DPPCのピークの向きがほぼ逆向きになったが,ラセミ体の膜ではキラルSFG信号は殆ど見られず,脂質分子薄膜からのキラリティの評価ができた.
さらに,本研究ではリン脂質分子の不斉炭素に接するエステル結合の加水分解反応を選択的に触媒できるホスホリパーゼの酵素反応の反応速度論と反応機構過程の解明について調べた.L型脂質分子のみと触媒作用する酵素の立体選択の特性を利用し,脂質二分子膜の加水分解に伴う膜表面のキラリティ変化についてその場追跡した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キラル分子の薄膜からキラリティや界面構造を高感度に評価するために,これまでにSFG,AFMおよびSTM計測系について最適化を行い,その測定がほぼ実現できたため,概ね順調に進展していると判断する.
(1)ナフトール系不斉分子の研究について,キャスト法やスピンコーティング法で作成したナフトール薄膜からキラリティの測定に成功した.(R)-,(S)-またはラセミ体のビナフトール薄膜のキラリティについて明確に区別できるようになった.一連の測定からキラル信号の強度は薄膜内のビナフトールの結晶状態との関連性が示唆される.また,チオール結合を含むビナフトール誘導体を新規に合成し,金基板表面に自己組織化単分子膜(SAM)を構築し,単分子膜レベルの検出を試みた.しかし,未だに秩序的な配列構造が得られず,キラルSFG信号が得られていなかった.(2)リン脂質系キラル分子:キャスト法で作製した(L)または(D)の脂質分子のからのキラリティのSFGキラル信号の検出に続き,種々の飽和と非飽和リン脂質分子を用い,キャスト量を減らしSFG信号強度および膜表面形状との関係についても検討した.これらの脂質分子薄膜からのキラリティが評価できた.LB法で作製した単分子膜レベルの計測では,膜表面からのアキラル信号が同程度に得られたものの,キラル信号が非常に弱く,キラルSFG信号の絶対符号の決定にはまだ至らなかった.このようにキラル分子薄膜のキラルとアキラル信号の計測が実現でき,さらに高感度の測定を目指しているところではあるが,概ね順調に進展していると判断する.
さらに,本研究ではリン脂質分子の不斉炭素に接するエステル結合の加水分解反応を選択的に触媒できるホスホリパーゼの酵素反応の反応速度論と反応機構過程の解明や温度依存性について調べたため,概ね順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ビナフトール系キラル分子:アルキル鎖をもつビナフトール誘導体(R体とS体)を新規に合成し,金基板表面に自己組織化単分子膜(SAM)としてその構造を評価する.STM測定により,高い分解能性でその配列構造を調べる.単純なビナフトール分子から形成されたSAM膜構造の違いとの比較からその界面不斉構造について議論する.SFG分光測定により,ビナフトール誘導体のSAM膜やキャスト薄膜からのキラリティと界面分子構造について調べる.共焦点レーザー顕微鏡で表面形状を観察し,キラリティ発生の関係について検討する.単分子膜レベルの界面キラリティの高感度検出を試みる.
(2)リン脂質系キラル分子:キャスト法で作製した(L)または(D)のの脂質分子のからのキラリティのSFGキラル信号の検出に続き,種々の飽和と非飽和リン脂質分子を用い,キャストの量を減らし,キラルSFG信号強度と膜表面形状(結晶度)との関係について検討する.これまでに使用してきた親水基板のほかに,生体適合性の高分子薄膜や高分子電解質多層膜(PEM)の基板使用や,基質材料へ脂質分子への分散も検討し,より均一かつ薄く分散したキラル分子の薄膜の構築を試み,SFG分光法によりそのキラリティ構造と界面分子構造を追跡する.引き続き脂質二分子膜からのキラリティの測定に挑戦したい.さらに,L型リン脂質分子のみと触媒作用する酵素ホスホリパーゼA2 (PLA2)の立体選択の特性を利用し,種々のキラル組成の脂質分子膜の加水分解に伴う膜表面のキラリティの変化と分子構造変化についてSFG分光法とAFM測定などにより調べ,分子レベルで界面キラリティと酵素反応の関係について検討したい.
位相敏感SFG分光測定システムを構築し,キラリティ信号について当測定系によりさらに検討する予定.
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