2012 Fiscal Year Annual Research Report
電子伝達タンパク質間の会合体形成を利用する遺伝子転写制御因子の出力変換
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Programming - Science of Molecular Superstructures for Chemical Devices |
Project/Area Number |
24108715
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中島 洋 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00283151)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | シグナル変換 / 電子伝達タンパク質 / 転写制御因子 / バイオセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子転写制御因子とは、センサータンパク質の一種であり、細胞内外の刺激に応答して、特定遺伝子からのメッセンジャーRNA(mRNA)合成(つまり遺伝子にコードされたタンパク質の生合成)を制御するタンパク質である。転写制御因子による刺激感知には、分子やイオンなどの物質のほか、光、温度のような物理量も含まれ、しかも高感度・高選択的である。したがって、転写制御因子の刺激感知能を活かした化学素子を考案できれば、酵素反応を利用する既存のバイオセンサーとは全く異なる動作原理に基づくセンサーを提案することができるはずである。問題は、転写制御因子の最終出力である「外部刺激に応答したmRNAの合成制御」をいかに簡便な仕組みで「電気的シグナル」へと変換するかである。採択研究の目的は、我々がこれまでに開発した電子伝達タンパク質を利用するシグナル変換機構を利用し、転写制御因子による刺激センシングを直接簡便に電気的なシグナルへと変換する仕組みを創り出すことにある。 24年度の研究では、全体の仕組みづくりに向けた様々な構成要素の調製法確立とその物性評価を行った。具体的には、1) シグナル変換の要となるタンパク質(銅タンパク質、アズリン)へのターゲットDNA(t-DNA、転写制御因子の結合配列)の導入法、2) アズリンの電極表面への固定法、3) 本研究で用いる遺伝子転写制御因子(CooA, 一酸化炭素のセンサータンパク質)の調製、4) 調製したアズリンt-DNA複合体に対するCooAの結合能の評価 の4項目である。各項目の達成度の詳細と研究全体の遂行に対する到達度は、次項「現在までの到達度」で述べる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各研究の項目の達成度ついて、以下に述べる。 1) シグナル変換の要となるタンパク質(銅タンパク質、アズリン)へのターゲットDNA(t-DNA、転写制御因子の結合配列)の導入法を確立した。アズリンタンパク質の銅イオン近傍に位置するアミノ酸残基(メチオニン44)をシステインに置換し(Cys44変異体の調製)、ここに1,2-エチルビスマレイミドを反応させ、t-DNA固定の足場を作った。その後、チオール基を5’末端に導入したt-DNAの一本鎖を反応させ、アズリン/t-DNA一本鎖を調製してから相補鎖との2本鎖形成反応を行うことで、アズリン/t-DNA二本鎖複合体を得た。 2) アズリンの電極表面への固定法を確立した。当初計画では、アズリンに導入した多環芳香族(ピレン)誘導体とグラファイト電極のπ‐π相互作用を利用して固定する予定であったが、アズリン/t-DNA複合体が大きすぎ(分子量約34000)ため、十分な固定が確保できなかった。そこで、研究計画書に従い、アズリンと電極を共有結合で固定する方法に切り替えた。共有結合法はうまくゆき、固定反応24時間経過後もタンパク質が安定に存在し、電気化学的応答を示すことを確認している。 3) 本研究で用いる遺伝子転写制御因子(CooA, 一酸化炭素のセンサータンパク質)の調製 好熱菌の遺伝子から調製した組換え体発現系を利用して、一酸化炭素センサータンパク質CooAの生合成と精製に成功した。精製したタンパク質は、今後の研究に十分な量を確保できるようになっている。 4) 調製したアズリン/t-DNA複合体に対するCooAの結合能の評価 調製したアズリン/t-DNA複合体とCooAとの結合・解離に関す実験を行った。まだ予備実験の段階ではあるが、一酸化炭素と反応した(感知した)CooAは、アズリン/t-DNA複合体に対し、結合能増大を示す結果が得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度については、研究計画がおおむね順調に遂行できている。したがって、25年度についても、当初研究計画に従って研究を遂行してゆく。具体的な方策を以下に示す。 1) 電極に固定したアズリン/t-DNA複合体に対してCooAの結合・解離が円滑に行えるよう、電極に固定するアズリン/t-DNA複合体密度の最適化:24年度の研究から、電極上のアズリン/t-DNAは、ほぼ最密状態で固定されていることがわかってきた。このままでは、電極から伸びるt-DNA間の距離が近すぎ、CooAの接近が物理的に阻害される恐れがある。そこで、アズリン/t-DNAを電極へ固定する際、t-DNAを持たないアズリンを持つものと同時に固定し、電極から伸びるt-DNAの周辺空間を広げる。ただし、アズリン/t-DNAの減少は、電極からのシグナル減少につながるため、アズリン/t-DNAとt-DNA非固定アズリンの存在比は、実験的に最適化を図る必要があると考える。 2) CooAへの変異導入による一酸化炭素感度の調整:タンパク質をセンサーに使うことの利点の一つに、変異導入などの手法を使って、タンパク質の反応性(センサー感度)制御を比較的容易に行えることが挙げられる。反応性の異なるCooAを用意しておけば、シグナル電流量はそのままに、感度のレンジ調整のみを実現することができる。こうしたレンジ調整は、一酸化炭素の酸化反応を利用する電気化学センサーでは難しく、センサータンパク質を利用することの最大のメリットであることから、25年度に精力的に取り組む。
|