2012 Fiscal Year Annual Research Report
火山岩斑晶中メルト包有物のハロゲン・希ガス組成に基づく沈み込み流体の起源の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Geofluids: Nature and dynamics of fluids in subduction zones |
Project/Area Number |
24109702
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
角野 浩史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90332593)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ハロゲン / 希ガス / 地殻流体 / 沈み込み / 島弧火山岩 / メルト包有物 / 質量分析 / 中性子照射 |
Research Abstract |
今年度は、伊豆小笠原弧で採取した火山岩からメルト包有物を含むかんらん石試料を分離した。本研究では、原子炉にて試料に中性子を照射し、ハロゲン元素を特定の希ガス同位体に変換した後、希ガス質量分析により測定することで、かんらん石のメルト包有物に含まれる極微量のハロゲン元素を定量することを柱としている。しかし利用予定であった原子力研究開発機構の材料試験炉(JMTR)が東日本大震災以来停止したままであることから、一部の試料についてはベルギーの原子炉で中性子を照射し、英国・マンチェスター大学で希ガス同位体分析を行った。また沈み込むスラブ物質として比較対象となる、太平洋プレート上の深海底堆積物と海洋地殻のハロゲン分析も行った。その結果、伊豆小笠原弧の島弧マグマには、希ガス同位体組成ではマントルへ沈み込んだ海水起源成分の寄与が支配的であるのに対して、ハロゲン元素組成では沈み込みの影響が大きくないことが明らかになった。これは沈み込み帯のマントルウエッジかんらん岩では、希ガス、ハロゲンともに沈み込んだ堆積物中間隙水起源の成分の寄与が卓越することと対照的である。この理由として、(1)後者の報告がなされている沈み込み帯と伊豆小笠原弧では、沈み込むスラブの温度が異なり、そのためスラブからの希ガスとハロゲンの供給量が異なっていること、(2)スラブからの流体そのものを捕獲しているかんらん岩と異なり、マントルウエッジ物質が溶融して生じた島弧マグマでは、マントルに本来含まれるハロゲンによりスラブ起源流体の寄与が希釈されること、の二つの可能性を考えている。この成果は国内学会と、国内開催の国際学会で報告した。また国内で唯一稼働している、京都大学原子炉実験所のKUR研究炉を用いて試料の中性子照射を行うため、照射条件の検討を行い、中性子束とエネルギー分布を評価するためのモニター試料の照射も実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
伊豆小笠原弧の火山岩の採取と分析のための鉱物分離、分離したかんらん石試料についての希ガス同位体分析は当初の予定通り順調に進行したが、ハロゲン分析のための中性子照射が当初利用予定であった原子炉が年度内に稼働しなかったため行えず、国外の原子炉を用いて照射した試料の分析しか行えなかった。国内の代替炉の利用を検討し、テスト照射の結果から本研究に用いるには問題がないことは明らかになったが、国内で現在唯一稼働している研究用原子炉であるために利用者が極めて多く、割り当てられる照射枠が限られていたことから、かんらん石試料の照射までは実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はマリアナ弧の火山岩について試料の入手と鉱物分離を行い、分離したかんらん石あるいは輝石試料について希ガス同位体分析とハロゲン分析を行う。今年度に行った検討で、KUR研究炉を用いた中性子照射は研究の遂行の上で問題ないことが明らかになったため、今後はこの原子炉を用いる。ただし原子炉の規模が小さいために一度に照射できる試料量が限られ、また利用可能な照射枠も多くないと予想されることから、鏡下におけるメルト包有物の観察や主成分・微量元素組成分析、非照射試料の希ガス分析、顕微分光分析などをじゅうぶんに行い、スラブ由来流体の特徴を強くもつ試料を厳選してハロゲン分析に用いる。伊豆小笠原弧とマリアナ弧という、テクトニックセッティングは似ていながらスラブの沈み込み角度、背弧海盆拡大の有無や島弧地殻の発達度などが異なる二つの沈み込み帯で、島弧マグマに寄与する流体の組成と量をハロゲンと希ガスを指標として求め比較することで、マントルウエッジにおける水の輸送プロセスと収支に関する新たな知見を得ることを目指す。
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