2012 Fiscal Year Annual Research Report
脳機能制御基盤としての海馬広域神経回路網におけるペリニューロナルネットの存在
Publicly Offered Research
Project Area | Deciphering sugar chain-based signals regulating integrative neuronal functions |
Project/Area Number |
24110510
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
神野 尚三 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10325524)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ペリニューロナルネット / 海馬 / パルブアルブミン / 投射型GABAニューロン |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 海馬のペリニューロナルネットの空間的・時間的分布の多様性 中枢神経系のニューロンの一部は、ペリニューロナルネット (PNN) と呼ばれる特殊な構造に覆われている。PNNは多様な糖鎖を含み、脳の可塑性の制御に関与している。本プロジェクトでは、記憶と情動の中枢である海馬に焦点をあて、PNNの発現強度の海馬の長軸に沿った差異と、生後発達について組織化学的な検討を行った。その結果、生後発達に伴うPNNの発現強度の上昇は、認知や学習に関わる背側海馬の方が情動に関わる腹側海馬よりも有意に大きいことが示された。また、パルブアルミンとPNNの発現強度の生後発達は必ずしもリンクしておらず、異なる因子によって制御されていることも示唆された。 2) 海馬のPV含有ニューロンにおけるペリニューロナルネットの発現様式 先行研究によって、PNNはパルブアルブミンを含むニューロンに特異的に発現することが示されている。しかしながら、近年の研究では、PNNとパルブアルブミンの発現は必ずしも一致しないことが示されている。このため本プロジェクトでは、マウス海馬におけるPNNとパルブアルブミンの共存率をステレオロジー法により解析した。その結果、マウス海馬では、PNNを有するニューロンは全てパルブアルブミン陽性であったが、パルブアルブミン含有ニューロンの一部はPNN陰性であった。このようなPNNをもたないパルブアルブミン含有ニューロンは、アンモン角の上昇層に特に多かった。また、内側中隔野などに軸索を送る投射型GABAニューロンのマーカーであるソマトスタチンを高率に発現していた。これらから、海馬のパルブアルブミン含有ニューロンは、PNNを有する介在ニューロン型と、PNNがない投射ニューロン型に分けられることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、形態学的手法による定量解析を主軸に、電気生理学的手法、分子生物学的手法を組み合わせて、海馬を中心とする神経回路における糖鎖の機能について明らかにすることを目指している。以下にプロジェクトごとに達成度をまとめる。 1) ペリニューロナルネットの可視化とステレオロジー解析 齧歯類の海馬には、長軸方向に沿って異なる機能に関わる神経回路が分布している。この機能分化をモデルにして、認知や学習・情動などにおける糖鎖の役割を明らかにするため、ステレオロジー法による神経回路特異的なペリニューロナルネットの発現様式の解析を計画した。WFAなどのレクチンと、各種の抗プロテオグリカン抗体を用いた可視化により、海馬や大脳皮質、脳幹などの中枢神経系の広い部位におけるそれらの存在様式について、発達や加齢による変化の解析が進行している。既に2つのプロジェクトについて、論文投稿準備中である。また、ペリニューロナルネット以外の糖鎖構造について、シナプス機能への関与が指摘されており、電子顕微鏡や、共焦点顕微鏡による超微形態の解析を進めている。 2) 電気生理学的解析 近年、各種のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンによるシナプス可塑性の制御機序に注目が集まっている。我々は、マウス海馬のCA2領域にWFAによる強い標識が認められること、またこの領域ではLTPが起きにくいことに注目し、電気生理学的解析を進めている。予備的な結果であるが、コンドロイチナーゼABCによって糖鎖を分解すると、CA2ではLTPが起きるようになること、逆にCA1ではLTPが減弱することを見出している。電気生理学的手法によるプロジェクトは、当初の計画を越えて、研究が展開しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
1) ペリニューロナルネットの神経回路特異的発現様式のステレオロジー解析:海馬の長軸方向に沿ったペリニューロナルネットの発現様式には、空間的・時間的な多様性が認められた。本年は研究をさらに進めて、海馬との密接な線維結合を有する扁桃体や中隔野、嗅内野や乳頭体などにおける発現様式のステレオロジー解析を推進する。 2) 電気生理学的解析:スライスによるLTPの実験に加えて、in vivo記録によるLTPや、領域間の神経活動性の変化の解析を進める。 3) ウィルスベクターによる神経回路機能の改変実験:現在、テトラサイクリン応答エレメントを含み、コンドロイチナーゼABCや硫酸転移酵素 (GalNAc4S-6ST, etc; 神戸薬科大学北川裕之教授から供与) とGFPをコードするbicistronicレンチウイルスベクター (pLenti6PW-TRE-ChABC-I-GFP, pLenti6PW-TRE-GalNAc4S-6ST -GFP) の作成を進めている。これらと、SYNプロモーター下にテトラサイクリン制御トランス活性化因子配列を持つレンチウイルスベクター (pLenti6PW-SYN-tTAad; 京都大学日置寛之助教より供与) を、海馬の広域神経回路網の特定領域にダブルインジェクションすることにより、高い発現効率でペリニューロナルネットの選択的破壊や糖鎖構造の選択的改変を行う。 4) 糖鎖の改変に伴う神経回路機能の変容についての解析とデータマイニング:糖鎖の改変によってシナプス伝達や長期増強にどのような変化が生じるかを解析する。また、オープンフィールド試験や高架式十字迷路試験を用いて、糖鎖の破壊や改変によって抑うつ症状が改善するかどうかを明らかにする。これらの生理学的データは、形態学的データと組み合わせて、統計処理ソフトRによるデータマイニングを行う。
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Research Products
(16 results)