2012 Fiscal Year Annual Research Report
脳神経系に特徴的に発現するケラタン硫酸の構造と機能
Publicly Offered Research
Project Area | Deciphering sugar chain-based signals regulating integrative neuronal functions |
Project/Area Number |
24110517
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
川嵜 敏祐 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (50025706)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 単クローン抗体 / R-10G / ヒトiPS細胞 / 低硫酸化ケラタン硫酸 / ポドカリキシン / テネイシン-R / ホスファカン / PTP-ZETA |
Outline of Annual Research Achievements |
本神経系ケラタン硫酸に関する研究は、筆者らが最近、ヒトiPS/ES細胞マーカー抗体として作成した単クローン抗体R-10Gが、ケラタン硫酸を認識し、しかも、市販の抗ケラタン硫酸抗体とは互いに交差反応することのない新規な特異性を有する抗体であり、さらに、この抗体が、ヒト成体組織では脳組織のみに強く反応するという偶然の発見を契機としてスタートしたものである(Kawabe K. et al. , Glycobiology 23, 322-336 (2013))。その後の研究により、5D4などの市販の抗ケラタン硫酸抗体はほとんどのガラクトース残基の6位が硫酸化された高硫酸化ケラタン硫酸を認識するのに対し、R-10Gはガラクトース残基の6位の硫酸化がほとんどみられない低硫酸化ケラタン硫酸を認識することを明らかにしている。ラット脳の蛍光抗体組織染色の結果、R-10Gは大脳、小脳、海馬領域などの広い範囲にわたり特徴的な染色を示すのに対して5D4およびBCD-4は大脳、小脳、海馬領域のごく限られた領域を島状に染色することが明らかとなった。また、ヒトiPS細胞表面のR-10Gエピトープはポドカリキシンという糖タンパク質に特徴的に発現している。これに対し、ラット脳組織の膜画分より得られたR-10G結合画分では、R-10Gエピトープはテネイシン-R、PTP-ZETA (ホスファカン)の2種のタンパク質上に発現している。これらのタンパク質はいずれも脳マトリックス成分として神経機能に深く関係している分子であり、これらの分子に発現する低硫酸化ケラタン硫酸の働きに興味がもたれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では脳神経系におけるケラタン硫酸の特徴および生理的意義を解明するため次の3項目にわけて研究を推進している。 1.各種抗ケラタン硫酸抗体の特異性の解明とそれぞれの抗体の脳内染色部位の同定 2.脳神経系ケラタン硫酸の糖鎖構造の解析およびコアタンパク質の同定 3.脳神経系ケラタン硫酸の生合成機能の解析 項目1に関しては、研究実績の概要に記したように、市販抗体である5D4およびBCD-4とR-10Gは対照的なラット脳組織染色像を示した。これまで、組織染色で見落とされていた場所に新たにR-10G陽性のケラタン硫酸の存在が明らかにされた意味は大きく高く評価できる。項目2についても計画通り研究を実施し、テネイシン-R、PTP-ZETA (ホスファカン)の2種の膜タンパク質がコアタンパク質として同定された。ヒトiPS細胞表面にみられたR-10G抗原タンパク質であるポドカリキシンは脳においても発現しているため、脳でもポドカリキシンがケラタン硫酸のコアタンパク質として同定されると予測していたが、この予測は外れた。PTP-ZETA は従来、コンドロイチン硫酸の他に領域特異的にケラタン硫酸(KSIII)を含むことが報告されていたが、テネイシン-R がケラタン硫酸を含むという報告はなく、新規な発見といえる。テネイシン-R、PTP-ZETA は共に中枢神経系に主に発現し、神経系ネットワークの形成や安定化などに関与すると考えられておりR-10Gエピトープがこれらの機能調節に関与する可能性を示唆しており興味深い。項目3については、現在取り組んでいるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究によりテネイシン-R、PTP-ZETA (ホスファカン)の2種のタンパク質がR-10Gにより認識される低硫酸化ケラタン硫酸のコアタンパク質として同定されたので、今年度の脳神経系の免疫組織化学的研究(項目1)では、テネイシン-RおよびPTP-ZETAそれぞれのコアタンパク質に特異的な抗体とR-10Gとの二重染色を行い、脳に発現するテネイシン-RおよびPTP-ZETAのうちR-10Gエピトープを発現した分子および非発現の分子の局在性を調べる。項目2については、昨年度はラット脳の膜タンパク質について調べたので、今年は、脳の可溶性画分(マトリックス画分)について昨年と同様の実験を実施する。マトリックス画分には、膜タンパク質画分とほぼ同程度のR-10Gエピトープが含まれると推定されており、両者を調べることで、脳の全体像を知ることが出来る。また、別途、マトリックス画分をイオン交換クロマトグラフィーにかけホスファカンを精製したのち、グリコサミノグリカンの化学的性質を解析する。項目3については、ケラタン硫酸の基幹糖鎖構造は5種類の遺伝子によりコードされる4種類の酵素活性により触媒されることが知られているが、これらの基幹糖鎖構造とコアタンパク質の結合部位の合成機構はO-結合型あるいはN-結合型で大きく異なる。脳R-10G抗原タンパク質の結合部位の構造を明らかにしたい。
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Research Products
(11 results)
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[Journal Article] A novel antibody for human induced pluripotent stem (hiPS) cells and embryonic stem (ES) cells recognizes a type of keratan sulfate lacking oversulfated structures.2013
Author(s)
Kawabe K, Tateyama D, Toyoda H, Kawasaki N, Hashii N, Nakao H, Matsumoto S, Nonaka M, Matsumura H, Hirose Y, Morita A, Katayama M, Sakuma M, Kawasaki N, Furue-Kusuda M, Kawasaki T
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Journal Title
Glycobiology
Volume: 23
Pages: 322-336
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] ケラタン硫酸の微量構造解析法の開発と脳神経機能の解明2013
Author(s)
滝嶌佑人,丸山陽,山内拓也,廣瀬佳則,松本尚悟,中尾広美,古江-楠田美保,川嵜伸子,川嵜敏祐,豊田亜希子,豊田英尚
Organizer
日本薬学会第133年会
Place of Presentation
パシフィコ横浜, 神奈川県
Year and Date
2013-03-28
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[Presentation] ヒトiPS細胞上のケラタン硫酸鎖を認識する新規単クローン抗体の性質2012
Author(s)
松本尚悟,中尾広美,河邊圭子,館山大揮,廣瀬佳則,森田彩葉,野中元裕,川崎ナナ,橋井則貴,川嵜伸子,古江-楠田美保,豊田秀尚,川嵜敏祐
Organizer
第31回日本糖質学会年会
Place of Presentation
鹿児島市民文化ホール, 鹿児島県
Year and Date
2012-09-18
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[Presentation] A novel marker antibody of human induced Pluripotent Stems (iPS) cells, which recognizes a new type of keratan sulfate.2012
Author(s)
Kawasaki T, Kawabe K,Kusuda Furue M, Nakao H, Matsumoto S, Nonaka M, Toyoda H, Hirose Y, Kawasaki N, Kawasaki N
Organizer
The 26th International Carbohydrate Symposium
Place of Presentation
Madrid, Spain
Year and Date
2012-07-23
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