2012 Fiscal Year Annual Research Report
グリア細胞の貪食作用による脳内環境の維持機構とその破綻
Publicly Offered Research
Project Area | Brain Environment |
Project/Area Number |
24111530
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
華山 力成 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任准教授 (40403191)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 軸索剪定 / アポトーシス / マイクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
発生の初期過程では、必要以上にシナプスが形成されるが、発生が進むにつれ重要なシナプスのみが維持され、それ以外のシナプスは除去される。この過程で軸索が変性し、アクソソームと呼ばれる膜小胞に分断化され、マイクログリアに貪食される。更にマイクログリアはC1qなどの分子を放出することにより、軸索の変性を誘導し貪食することが知られている。私達はこの貪食過程で、アポトーシス細胞と同様に、膜リン脂質ホスファチジルセリンが関与するのではないかと考えた。そこでこの過程のモデルとして、Cell trackerで標識したPC12細胞を用いて実験を開始した。PC12細胞は血清を抜きNGF存在下で1週間ほど培養すると軸索を伸ばすが、その後、培養液からNGFを抜いて8時間培養しても、軸索をもつPC12細胞の割合には、ほとんど変化を認めなかった。一方、マイクログリアの細胞株であるMG6細胞を加えて共培養すると、NGFの存在下では、やはり変化を認めないが、NGFを抜いてから8時間後には、軸索がかなり失われていることが明らかとなった。次にMG6細胞も染めてこの過程を観察した。MG6細胞の一部は、PC12細胞の軸索と接触しており、この接触によってPC12細胞の軸索が消失しているのが観察された。また、MG6細胞は、軸索の残渣であるアクソソームを貪食していることが分かった。次に私達はNGFを抜いて半日培養しても、PC12細胞はアポトーシスを起こさないことを確認した。ところがNGFを抜いて4時間後にはアポトーシス細胞と同様に、膜リン脂質ホスファチジルセリンが細胞膜の外側に露出されていることが、Annexin V染色で判明した。よって今後は、生体内でホスファチジルセリンを阻害することにより、マイクログリアによる軸索剪定が阻害されるのかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、私達はPC12細胞を用いた軸索除去の実験系を樹立し、マイクログリア細胞が軸索剪定を担っていること、更には変性軸索にはアポトーシス細胞と同様に膜のリン脂質ホスファチジルセリンが露出していることを明らかにした。このような実験系の樹立は前例がなく、期待した通りの進展であると考えている。また、私達は生体内でホスファチジルセリンを阻害するモデルマウスの作製を行っており、順調に生まれてきている。このマウスは、脳内環境での軸索剪定やアポトーシス神経細胞の除去を阻害する良いモデルになると期待されており、研究計画は予定通り順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、マイクログリアによるアポトーシス細胞、アクソソーム、およびエクソソームの貪食を生体内で阻害することにより、どのような病態が引き起こされるかを明らかにすることを目標としている。これらは全て膜表面にホスファチジルセリンを露出しており、これをマイクログリアが特異的な受容体を介して認識し貪食する。これまでこの貪食過程には、我々が同定したMFG-E8やTIM4以外にも様々な分子が報告されており、この多様性の為、未だにマイクログリアによる貪食を生体内で阻害するモデルマウスが存在しない。そこで発想を変え、ホスファチジルセリンを覆い隠すことによって、マイクログリアによる貪食を阻害することを試みる。MFG-E8は、そのRGD配列を介してインテグリンと結合するが、このアスパラギン酸をグルタミン酸に変えた変異体は、ホスファチジルセリンと強く結合するが、インテグリンとは結合できず、Dominant-negativeとして、ホスファチジルセリンを介した貪食を強く抑制する。よって、この変異体のトランスジェニックマウスを作製を行った。CAGプロモーターの下流でMFG-E8のD89E点変異体を発現させると胎生致死になるので、loxPで挟んだネオマイシン耐性遺伝子を用いて遺伝子発現を制御したコンディショナル・トランスジェニックマウスを作製した。今後はこのマウスに組織特異的なCreマウスを掛け合わせてNeo遺伝子を抜くことによって、マイクログリアにMFG-E8のD89E点変異体を発現させる。このマウスで、貪食障害によって多発性硬化症のような自己免疫疾患が自然発症するのかを検討するとともに、神経細胞死や神経変性疾患のモデルマウスと掛け合わせることによって、どのような病態が引き起こされるのかを検討する。
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