2012 Fiscal Year Annual Research Report
軸索変性の分子細胞生物学的解析とその治療応用に関する研究
Publicly Offered Research
Project Area | Brain Environment |
Project/Area Number |
24111559
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
若月 修二 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 室長 (00378887)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ユビキチンプロテアソーム / タンパク質分解 / 軸索変性 / 神経変性疾患 / リン酸化シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
軸索変性は,軸索への物理的な傷害や,筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病,アルツハイマー病などの神経変性疾患において認められる「軸索が壊れる」現象である.軸索変性を適切に制御することが神経変性疾患による神経症状の開始,あるいは進行の抑制に有効であることは,主に動物モデルを用いたさまざまな研究により示唆されている一方で,軸索変性を制御する分子メカニズムの詳細については未だ不明な点が多く残されている.我々はこれまでに,セリン・スレオニンキナーゼAKTがユビキチンリガーゼZNRF1を介してプロテアソームに依存的に分解されて軸索から失われることにより変性が促進されることを明らかにした(Wakatsuki S, et al., Nat Cell Biol 2011).本研究計画では主にこの成果に基づき, ZNRF1を起点とした軸索変性の分子メカニズムの詳細を分子細胞生物学的に理解することにより軸索を温存する方法論を確立し,神経変性疾患の治療に応用するための基礎的な研究を行う. 研究代表者は次のような研究結果から本研究計画の立案した.① 変性過程の軸索ではAKTの消失に伴ってGSK3Bが活性化し,GSK3Bによるリン酸化によってCRMP2の機能が減弱することにより軸索を構成する微小管の安定性が低下し変性が促進された.② 軸索変性モデルを評価系とした小分子化合物のスクリーニングにより,GSK3B阻害剤を含む複数のキナーゼ阻害剤が軸索変性の進行を遅延させた.③ 酸化ストレスを与えて細胞内を酸化条件にすることにより,チロシンリン酸化されたZNRF1の存在量が相対的に増加するとともに,ユビキチンリガーゼ活性が亢進した.④ Cre-loxPシステムにより神経細胞にユビキチンリガーゼ活性を欠くZNRF1 C184Aを過剰発現させたトランスジェニック(Tg)マウスではワーラー変性が遅延した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度はZNRF1の活性制御メカニズムについて調べ,細胞内レドックスにより活性化されるリン酸化シグナルによりZNRF1自身がリン酸化されるとともにユビキチンリガーゼ活性が亢進することを明らかにした.生物情報科学的なアルゴリズムにより,ZNRF1の106番目のチロシン残基が上皮増殖因子受容体などの受容体型チロシンキナーゼによってリン酸化されると予測され,これをキナーゼ阻害剤やRNA干渉法に基づく発現抑制により実証した.また,ZNRF1チロシンリン酸化不全変異体Y106Fは軸索変性を抑制した.これらのことから,細胞内レドックス環境の変化が軸索変性過程におけるZNRF1のユビキチンリガーゼ活性を正に制御することが変性を促進することが示唆された. ZNRF1のリン酸化およびAKTに対するユビキチン化能の亢進は培養大脳皮質神経細胞に対して6-ヒドロキシドパミンなどを与えて細胞内環境を酸化的条件にした場合にも観察された.また,ユビキチンリガーゼ活性を欠くZNRF1 C184Aを発現するTgマウスでは線条体への6-ヒドロキシドパミン投与により誘発されるドパミン神経の細胞死が野生型マウスと比べ少数であった.これらのことから,ZNRF1の活性化を抑制することによりパーキンソン病モデルの病態の進行を遅延できる可能性が示唆された. 一方,AKTおよびその下流のGSK3Bシグナルは,例えば,培養海馬神経細胞が1本の軸索と複数の樹状突起を持つまでの極性形成過程の制御において極めて重要であり,GSK3B阻害剤や不活性型GSK3Bの過剰発現は極性形成を撹乱し複数の軸索を生じさせる.このモデルにおいて,ユビキチンリガーゼ活性を欠くZNRF1変異体C184Aを過剰発現させると極性形成が撹乱されることから,ZNRF1を介したプロテアソーム依存的なAKTの分解制御は極性獲得においても重要な役割を担うと推測された.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究成果に基づき,本年度は細胞内レドックスを制御する分子実体,並びにZNRF1のリン酸化に直接関わるタンパク質キナーゼを同定する.具体的には,① ROS産生に関わる酵素やROSにより活性化されZNRF1をリン酸化するチロシンキナーゼを特定し,それらの活性化型,不活性化型変異体の過剰発現やRNA干渉によって発現抑制が軸索変性に与える影響を調べ,ROSを介したZNRF1の活性調節の分子基盤を明確にする.② ZNRF1とレドックス感受性GFPとの融合タンパク質を発現させた軸索の変性過程をタイムラプス観察し,ZNRF1を活性化する細胞内レドックス環境の変化がいつどこで生じるのかを明らかにする.また,得られた知見を極性形成モデルに適応し,軸索変性におけるZNRF1の活性化メカニズムとの異同を明確にする. 一方,GSK3Bはキナーゼ活性を介してさまざまなタンパク質の機能を調節し,ミトコンドリア機能やオートファジーなど,その破綻が神経変性疾患の発症と密接に関連する生理機能の制御に関わることから,GSK3Bのはたらきについて詳細に理解することは,神経変性疾患の治療戦略における主要な作用点の解明に繋がると考えられる.新たな試みとしてGSK3Bによってリン酸化制御される分子に着目した研究を開始し,軸索変性開始後数時間までの初期過程において,GSK3Bがミトコンドリアに局在するBcl2類縁タンパク質をリン酸化することを明らかにした.現在,同分子のリン酸化と軸索変性との関連について詳細な解析を行っている.以上のような各論的研究を推進し,研究期間内に「軸索変性の分子メカニズム」の全貌を明らかにする. 上記に加えて,末梢神経髄鞘形成に対するグルタミン酸の影響,ポリグルタミン病モデルに対するion exchangerの症状改善効果について研究を進めており,本年度中の論文発表を予定している.
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Research Products
(10 results)