2012 Fiscal Year Annual Research Report
低雑音マイクロ波カイネティックインダクタンス検出器の開発
Publicly Offered Research
Project Area | The Physical Origin of the Universe viewed through the Cosmic Background Radiation - from Cosmological Inflation to Dark Ages - |
Project/Area Number |
24111711
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
野口 卓 国立天文台, 先端技術センター, 教授 (90237826)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 超伝導 / 共振器 / マイクロ波 / 準粒子 / Q値 / 緩和時間 / 検出器 / 感度 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来、超伝導ギャップ内には準粒子状態は存在しないものと考えられ、ギャップ周波数より十分周波数の低いマイクロ波帯では熱的に励起された準粒子の寄与のみを考えてきた。そのため、熱的な励起の効果が小さくなる超低温では、マイクロ波の吸収は無視でき、マイクロ波の損失は無くなるものと考えられてきた。しかしギャップ内準粒子状態が存在する場合には、クーパー対の解離によるギャップ内準粒子状態への準粒子励起が可能となり、マイクロ波の損失が発生する。また、ギャップ内状態に励起された準粒子は、フォノン散乱によってエネルギを失い緩和することになる。このような励起緩和過程を理解するには、拡張Mattis-Bardeen 理論を含めた準粒子数とフォノン数の分布を考慮したレート方程式による解析が有用であると考える。準粒子数とフォノン数の分布を無視したレート方程式による準粒子のエネルギ緩和過程の解析によると、共振器内の平均準粒子数は入力マイクロ波のパワーとフォノンや磁性不純物等による準粒子散乱時間に依存することが判明している。これは、従来の予測とは大きく異なる結果であり、超伝導検出器の感度の向上には、薄膜中の磁性不純物や欠陥等の密度の低減が重要であることを示唆している。また、超伝導共振器を利用したMKID検出器では、読出し信号として使用するマイクロ波回路からの不要(雑音)電力の流入が検出器の感度に大きな影響を与えることが考えられ、マイクロ波信号源自体からのマイクロ波雑音電力の流入の低減も大きな課題となることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで超伝導ギャップ内には準粒子状態は存在しないものと考えられ、ギャップ周波数より十分周波数の低いマイクロ波帯では熱的に励起された準粒子の寄与のみを考えてきた。そのため、熱的な励起の効果が小さくなる超低温では、マイクロ波の吸収は無視でき、マイクロ波の損失は無くなるものと考えられてきた。しかしギャップ内準粒子状態が存在する場合には、クーパー対の解離によるギャップ内準粒子状態への準粒子励起が可能となり、マイクロ波の損失が発生する。また、ギャップ内状態に励起された準粒子は、フォノン散乱によってエネルギを失い緩和することになる。このような励起緩和過程を理解するには、拡張Mattis-Bardeen 理論を含めた準粒子数とフォノン数の分布を考慮したレート方程式による解析が有用であると考える。準粒子数とフォノン数の分布を無視したレート方程式による準粒子のエネルギ緩和過程の解析によると、 (a) マイクロ波の損失は入射マイクロ波の強度(パワー)に比例して増大する。 (b) 共振器内の平均準粒子数は入力マイクロ波のパワーとフォノンや磁性不純物等による準粒子散乱時間に比例する。 (c) マイクロ波共振器の Q値はフォノンによる準粒子散乱時間の逆数に比例する。 など、従来の予測とは大きく異なる結果が得られている。 以上の解析結果を検証するため、Al薄膜を用いた超伝導共振器を製作し、超伝導共振器の共振特性の幅と深さを精密に測定する。これらの測定結果と先のレート方程式の予測を定量的な比較を行い、ギャップ内準粒子状態を考慮した拡張 Mattis-Bardeen 理論と準粒子数とフォノン数の分布を考慮したレート方程式による解析の有効性を検証できる。その準備として、今年度は、品質の良いAl薄膜を成膜するための電子ビーム蒸発源の整備を行なった。
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Strategy for Future Research Activity |
超伝導ギャップ内の準粒子状態密度変化させる目的で、磁性不純物の添加、結晶化など様々な条件で成膜した超伝導薄膜の物性とそれを用いた SIS 素子や超伝導共振器の性能等の測定を行い、準粒子状態密度と磁性不純物や空間的不規則性との相関を実験的に明らかにすることにする。具体的には、SIS素子(超伝導トンネル接合素子)と超伝導共振器を同一基板上に配置した試験素子を設計、試作する。この試験素子では、同じ条件で成膜した超伝導薄膜、つまり同じ品質の超伝導薄膜を用いた SIS 素子および超伝導共振器の性能を同時に測定することが可能となっている。まず、いくつかの温度でのSIS素子の電流-電圧特性を測定し、これまでに開発した電流-電圧特性のシミュレーションプログラムを用いて電極超伝導薄膜のギャップ内準粒子状態密度を決定する。これにより、磁性不純物濃度や空間的不規則性などとギャップ内準粒子密度や局在準位との相関が明らかになるものと考えている。また、超伝導共振器の共振特性の温度依存性の測定し、ギャップ内の準粒子状態が共振器の Q 値の低温での飽和特性に与える影響を調べる。まず、超伝導ギャップ内準粒子状態の存在を考慮して、Mattis-Bardeen理論を修正、拡張し、この拡張 Mattis-Bardeen 理論を用いて、超伝導体の表面インピーダンスや超伝導共振器の Q 値を計算し、 先の測定結果との比較を行う。これにより、拡張 Mattis-Bardeen 理論の有用性が検証できるものと考えている。 さらに、以上の結果をもとに、超低温で動作するミリ波・サブミリ波帯MKID検出器の感度向上をはかるためには、エピタキシャル成長技術を利用して薄膜を単結晶化したり、磁性不純物濃度を極力低減するなど、電極超伝導膜を高品質化することが重要であることを明らかにする。
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Research Products
(5 results)