2012 Fiscal Year Annual Research Report
上皮細胞ラテラル領域におけるアクチン繊維流動”力”の機能解明
Publicly Offered Research
Project Area | Regulation of polarity signaling during morphogenesis, remodeling, and breakdown of epithelial tubular structure |
Project/Area Number |
24112503
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山城 佐和子 東北大学, 生命科学研究科, 研究支援者 (00624347)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 一分子イメージング / アクチン細胞骨格 / 細胞運動 / 細胞接着 / 国際情報交換(アメリカ) |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞のラテラル領域は、細胞の形態形成・維持・細胞間認識に重要な細胞領域である。ラテラル領域では、極性に沿って細胞間接着構造が形成され、隣り合う細胞が協調して伸長し秩序だった上皮組織形成を遂行する。これらの過程で、ラテラル膜直下で発生するアクチン繊維流動は、物理的な“力”として何らかの機能を持つ可能性があるが、これまでほとんど解析されていない。本研究では、(1)ラテラル膜直下で起こるアクチン繊維流動の動態をアクチン単分子スペックル解析により可視化することと、(2)アクチン繊維流動(力)と、上皮細胞の形態形成・接着構造形成・細胞間認識 などのラテラル膜近傍で起こる重要な細胞現象の関連を明らかにし、新しい制御メカニズムの解明を目指すことを目的としている。 平成24年度の研究で、蛍光標識試薬DyLight-549 (Thermo Fisher社)で標識したアクチンを用いた新しいアクチン単分子スペックル顕微鏡法を開発した。新・単分子スペックル法では、単分子計測の時空間分解能が大幅に改良された。特に、近年開発されたスペックルトラッキングソフトウェア(SpeckleTracker J) を応用することにより、約 8 nm 誤差範囲内でアクチン一分子の細胞内位置決定が可能になった。この解析法により、アクチン繊維流動の速度と方向を高精度に捉えることができるようになった。さらに、細胞-基質間接着構造(接着斑)近傍でのアクチン線維流動を初めて高解像度で明らかにした。 これらの成果について、現在 Molecular Biology of the Cell 誌に投稿中である。また、アメリカ細胞生物学会年会(2012年12月、サンフランシスコ、ポスター発表)と、日本発生生物学会・細胞生物学会合同大会(2012年5月、神戸、ワークショップ口頭発表)において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主な進展は、新・単分子スペックル法を開発したことにより、既存の手法では最も高効率かつ高精度に細胞内で蛍光アクチン単分子を可視化・解析することに成功したことである。次の課題は新・単分子スペックル法を応用し、培養上皮細胞ラテラル膜でアクチン繊維流動を可視化・解析する。このため、培養上皮細胞株(哺乳類 MDCK 細胞及び両生類 A6 細胞)を入手し、細胞培養をセットアップした。MDCK 細胞については、発癌性変異であるRasV12変異体の発現を制御できるRas変異細胞を入手し、正常細胞ー変異細胞間で起こる細胞競合現象が再現できることを確認した。 培養上皮細胞が形成する上皮シートは厚みがあり、ラテラル膜でのアクチン線維流動はZ軸方向にも移動することが予想される。一方、単分子スペックルは蛍光が微弱であり、厚みのある試料での観察は非常に困難である。この問題の解決策の一つとして、自家蛍光の干渉を軽減するため長波長蛍光アクチンプローブの開発を試み、作製することに成功した。この長波長蛍光アクチンプローブ (CF680-アクチン)は新・単分子スペックル法に応用できる。また、多重蛍光イメージングにより蛍光アクチンと同時に観察する目的で、蛍光タンパク質融合細胞接着分子(E-カドヘリン、alpha-カテニン、ビンキュリン)発現プラスミドを入手または作製した。 以上の進捗状況から、ラテラル膜直下で起こるアクチン繊維流動の動態を可視化・解析し、アクチン繊維流動(力)と、ラテラル膜近傍で起こる重要な細胞現象の関連を明らかにする当初の研究目的を達成するための最適な研究手法及び材料を開発・準備することが出来ているため、研究はおおむね順調に進展していると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、新・単分子スペックル法を用いて、上皮細胞ラテラル膜におけるアクチン繊維流動の可視化・解析を引き続き行う。また、calcium-switch assay により細胞間接着の再構築を誘導した細胞について解析する。これらの結果から、上皮細胞ラテラル膜近傍でのアクチン繊維流動の動態について、基本的な知見を得ることが出来る。 さらにラテラル膜でおこる細胞現象(細胞間接着、細胞伸長等)におけるアクチン繊維流動の調節機構と役割を知る手がかりを得るため、i) アクチン・ミオシン阻害剤により繊維流動の阻害効果と細胞応答を解析する。 ii) 蛍光標識した細胞接着分子の挙動を多重蛍光イメージングにより明らかにし、アクチン動態と比較する。iii) アクチン繊維流動と細胞間の競り合いの関連を調べるため、異なる性質・状態の上皮細胞境界面でのアクチン流動の動態を明らかにする。具体的には、移動する細胞層の先導端と引きずられる細胞、及び癌遺伝子変異導入細胞と正常細胞の境界面で起こる各細胞の流動を比較する。これらを検証することで、アクチン繊維流動(力)と、ラテラル膜近傍で起こる重要な細胞現象の関連を明らかにし、アクチン繊維流動が細胞間接着及び細胞間コミュニケーションに関与する新しい制御メカニズムの解明を目指す。
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