2012 Fiscal Year Annual Research Report
褐藻の同型配偶子接合におけるアロ認証~形態学的同型性と生理学的異型性~
Publicly Offered Research
Project Area | Elucidation of Common Mechanisms for Allogeneic Authentication in Animals and Plants |
Project/Area Number |
24112701
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
本村 泰三 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (30183974)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アロ認証 / 褐藻 / 受精 / 走化性 / 走光性 / 同型配偶子 / 不等毛藻類 / 鞭毛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、後生動物・緑色植物(緑藻と陸上植物)と系統を異にする不等毛植物(ストラメノパイル系統群)に属する褐藻の同型配偶子接合におけるアロ認証機構について、1) 雌雄配偶子の前後鞭毛と鞭毛基底小体の超微細構造解析、2) 雌雄配偶子間・前後鞭毛間での鞭毛構成タンパク質に対するプロテオーム解析、3) 雌雄配偶子が持つ走光性と雄性配偶子が持つ走化性(フェロモン受容体)の解析を目的として研究を進めている。平成24年度は、褐藻シオミドロの全ゲノムデーターベースを基盤として、フィールドより採集した褐藻ワタモの遊泳細胞から前後鞭毛を単離して、LC-MS/MSで鞭毛タンパク質の同定を試みた。その結果、約600個の鞭毛タンパク質を同定し、さらに前鞭毛特異的タンパク質として25個、後鞭毛特異的タンパク質として53個が存在していることを明らかにした。さらに、雌雄配偶子の走光性に関与すると考えられる新奇青色光受容体タンパク質を発見した。組換えタンパク質に対する特異的抗体を用いた免疫学的試験により、本タンパク質は後鞭毛に局在していることが明らかとなった。走光性と走化性は、褐藻の受精において重要な刺激反応系であるため、走光性に関与する青色光受容体の発見は、アロ認証機構において大きな意味をもつものと考えられる。雌雄配偶子の認識・受精に関しては、雌性配偶子からの性フェロモンに対する受容体は雄性配偶子の鞭毛、特に推進力を担う前鞭毛に存在しているという仮説のもとに、配偶子の前後鞭毛について電子線トモグラフィーによる詳細な観察を行った。前鞭毛ではマスチゴネマと呼ばれる小毛と鞭毛軸糸を連結する構造が確認できた。また、高速ビデオを用いた観察から、雄性配偶子の前鞭毛が受精時における雌雄間の最初の認識に重要な働きを担っていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
褐藻の受精において、雌雄配偶子の鞭毛が大きな役割を担っていると考え、質量分析により約600個弱の鞭毛タンパク質を同定した。さらに、前後鞭毛に特異的なタンパク質を同定することができた。その中には、走光性に関与すると考えられる新奇の青色光受容体タンパク質が含まれている。このタンパク質は2つのRGSドメイン(regulator of G protein signaling) と4つのLOVドメイン (light, oxygen and voltage sensing)を有していた。一般に青色光に対して走光性を示す褐藻配偶子の後鞭毛は、フラビンによる自家蛍光で緑色自家蛍光を呈する。我々が発見したRGS/LOVタンパク質は、1)フラビン結合能を有するLOVドメインを有すること、2)走光性を示さないコンブ類の遊走子の鞭毛には存在していないこと、3)大腸菌により発現させた組替えタンパク質に対する抗体を用いた免疫形態学的観察から、後鞭毛に局在することから、新奇の青色光受容体タンパク質である可能性が極めて高いと考えられる。現在まで、青色光受容体タンパク質について、オーレオクロームやクリプトクロームなど幾つか報告されているが、生活環を通して遊泳細胞時期の走光性に特化して関与するものはなく、褐藻を含めた不等毛藻類の走光性、受精、そして環境適応を考える上で、大きな発見であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度と同様に褐藻雌雄配偶子の鞭毛に焦点をあてて、研究を進める。新奇青色光受容体タンパク質については、継続してその生理的機能を分子生物学的手法を用いて研究を展開していく。さらに、本年度は雄性配偶子に存在している性フェロモンレセプターの同定を目的に研究を開始する。褐藻のフェロモンレセプターは鞭毛、あるいは細胞本体の膜上に存在していると考えていたが、雌性配偶子からの性フェロモンが脂溶性の低分子であることから、レセプターは雄性配偶子の細胞内部、特に鞭毛軸糸と関係した状態で存在し、鞭毛運動に直接的に関係している可能性がある。そこで、受精過程の電子顕微鏡観察、高速ビデオによる鞭毛運動解析を進めて行く。また、全ゲノムが明らかとなったシオミドロm32株から派生した突然変異体の幾つかを、フランス・ロスコフ臨海実験所から供給を受けている。その中には、胞子体と配偶体の世代交代を行わず、配偶体世代のみの生活史を持つ突然変異体も含まれている。そこで、大量培養を行い、LC-MS/MS解析に耐える十分量を雌雄配偶子を得ることが可能となったため、これらの株を用いて雌雄配偶子鞭毛間のタンパク質の相違を明らかにする。
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