2012 Fiscal Year Annual Research Report
陸上植物の世代交代を制御するエピゲノム・遺伝子発現相関の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Correlative gene system: establishing next-generation genetics |
Project/Area Number |
24113521
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
玉田 洋介 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (50579290)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | エピゲノム / 発生 / 遺伝子発現制御 / ライブイメージング / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
陸上植物は、受精によって配偶体世代から胞子体世代へと世代交代を行う。その過程でゲノムワイドなクロマチン修飾の変動が起きると考えられるが、その実態はほとんど明らかにされていない。本研究では、クロマチン修飾群と遺伝子発現の相互作用を「エピゲノム・遺伝子発現相関」と名付け、陸上植物の受精による世代交代を制御するエピゲノム・遺伝子発現相関をヒメツリガネゴケを用いて解明することを目的とする。これまでに、受精によって①抑制型クロマチン修飾H3K27me3の触媒酵素PpCLFの発現が消失することが知られているが、②それによって他のクロマチン修飾のレベルもゲノムワイドに変動することで、③複数の胞子体の発生プログラムに機能する遺伝子(胞子体発生遺伝子と略)が脱抑制され、④その結果胞子体の発生プログラムが確立する、という仮説を立てた。 この仮説を検証するため、まず胞子体発生遺伝子を同定することを試みた。胞子体発生遺伝子は、配偶体世代ではH3K27me3によって抑制され、胞子体では脱抑制され発現すると考えられる。こうした条件を満たす遺伝子群の過剰発現株をそれぞれ作出したところ、一部の株の配偶体において胞子体を一部模倣する表現型が観察された。これらの遺伝子を胞子体発生遺伝子の候補とした。 次に、H3K27me3の消失によって変動するクロマチン修飾の解明を行った。これまでに、H3K27me3と逆に機能するH3K4me3のレベルが大きく変動しないという意外な結果を得た。 最後に、受精ライブイメージング系の構築を試みた。成熟した造卵器を用いる、細胞の屈折率に近いシリコンで試料と対物レンズとの間を架橋するシリコン浸レンズを用いる、スピニングディスク共焦点顕微鏡を用いて組織への光障害を抑えるなどの工夫によって、ヒメツリガネゴケの受精から初期胚発生にかけてのライブイメージングに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の当初の研究目的は (A) 胞子体発生遺伝子の同定、 (B) H3K27me3の消失によって変動するクロマチン修飾の解明、 (C) 受精ライブイメージング系の構築であったが、それぞれ (A) 胞子体発生遺伝子の候補遺伝子群の単離、 (B) H3K4me3が大きく変動しないことの解明、 (C) 受精ライブイメージングの成功と、おおむね順調に進展している。さらに、ヒメツリガネゴケ胞子体においてクラス2 KNOX遺伝子群が配偶体の発生プログラムを抑制することで、ヒメツリガネゴケの世代交代機構が維持されていることが連携研究者の榊原恵子博士を中心とした共同研究によって解明され、Science誌に受理されるなど、共同研究も順調に進んでいる。以上から、「 (2) おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、胞子体発生遺伝子の候補遺伝子群について、遺伝子欠失株を作出し、胞子体における表現型を観察する。もし胞子体の発生に異常が観察されれば、これらの遺伝子が胞子体発生遺伝子であると結論付けることができる。こうした遺伝子については、レポーター遺伝子を内生遺伝子座に挿入したノックイン株を作出することで、発現パターンを解明し、接合子の発生過程でいつ発現しているのかを明らかにする。 また、DNAメチル化など他のクロマチン修飾についても、H3K27me3の消失による変動を解析する。H3K4me3や興味深いパターンを示した他のクロマチン修飾についてはその検出プローブの開発を行い、受精から初期胚発生の過程でライブイメージングを試みる。 最後に、より精細な受精ライブイメージング系を構築する。昨年度までの研究で、受精から初期胚発生にかけての蛍光ライブイメージングに成功したが、造卵器を通しての観察であるため、光が屈折してクロマチン修飾の精細な観察が行えないことも明らかとなった。今後は、卵細胞を造卵器から取り出して、造卵器外で受精や胞子体発生を誘導する系を検討すると同時に、光の屈折を補正して精細な観察を行う天文学技術である補償光学を顕微鏡観察に応用し、造卵器内部の精細なライブイメージングを行うことを試みる。 以上の研究がうまく行けば、胞子体発生遺伝子座をLacI/LacO-蛍光標識法で標識し、クロマチン修飾群を別の蛍光タンパク質でそれぞれ標識して接合子のライブイメージングを行うことで、いつ胞子体発生遺伝子座のクロマチン修飾が変動したかを可視化する。以上の実験によって、世代交代に機能する「エピゲノム・遺伝子発現相関」を解明することができると期待している。
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Research Products
(18 results)