2012 Fiscal Year Annual Research Report
天然変性構造を持つEGF受容体分子認識ドメインの1分子構造ダイナミクス解析
Publicly Offered Research
Project Area | Target recognition and expression mechanism of intrinsically disordered protein |
Project/Area Number |
24113726
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐甲 靖志 独立行政法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 主任研究員 (20215700)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 1分子計測 / 蛋白質 / 構造ダイナミクス / 蛍光共鳴エネルギー移動 / 細胞増殖因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮成長因子受容体(EGFR)分子認識ドメインの構造ダイナミクスを1分子解析し、細胞内情報処理における役割の理解を目指す。EGFRはチロシンキナーゼ型細胞膜受容体であり、天然変性状態にある細胞質末端約220アミノ酸残基の分子認識ドメインで細胞質蛋白質と多状態相互作用する。 本研究では、分子認識ドメインの構造分布と構造状態遷移ダイナミクスを、2チャンネルタイムスタンプ法による単一分子内FRET検出を用いて計測する。具体的には、大腸菌でリコンビナント精製した分子認識ドメインのアミノ末端を蛍光色素Alexa488、末端から約70残基の位置にある内在性のシステインを蛍光色素Alexa555で2重標識してFRET計測を行った。 野生型の分子認識ドメインのFRET効率分布から少なくとも4~5つの構造状態が検出された。状態間の隠れマルコフ遷移モデルに基づいて変分ベイズ法で状態遷移ダイナミクスを推定した。最低FRET状態(効率0)を除いて考えると、低FRET効率の2状態を採る確率が高FRETの2状態を採る確率よりも大きいこと、遷移は高FRET状態間で最も速く(0.1s)、低FRET状態間では中程度(0.1~0.2s)、高FRETと低FRETの間では最も遅い(0.3~0.5s)こと等が推定された。最低FRET状態は、標識間が伸びきっているかアクセプター(Alexa555)が褪色しているものと考えられる。以上のように高・低FRET状態間の2状態転移的でありながら、より複雑な構造ダイナミクスが示唆された。 さらに、細胞内蛋白質Grb2との相互作用に必要なリン酸化部位である1068番目(末端から約100残基)のチロシンをアスパラギン酸置換してリン酸化を模倣すると、高FRET状態と最低FRET状態が増加し、さらにGrb2を加えると最低FRET状態への遷移が見られた。今後詳細な解析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は野生型分子の構造ダイナミクスを計測・解析しつつ、リン酸化と分子間相互作用の影響を明らかにするための試料調製を行う予定であった。実際にはGrb2分子の認識部位におけるリン酸化の影響、Grb2結合の影響を計測するところまで進んでおり、予想以上に速く研究が進展している。その他の認識分子Shcも精製できた。 Grb2認識部位(N末端から100アミノ酸残基)はFRET計測のための2重標識部位(N末端と末端から77残基)の外側にあり、この部位のリン酸化やGrb2結合がよりN末端側の分子構造に影響を与えることは、構造変化の長距離相関を示唆する興味深い結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
より広範囲な構造変化・構造ダイナミクスを明らかにするため、現在とは異なった標識部位での計測が必要である。標識を導入するための遺伝子構築は終了しており、発現・精製法も確立している。 一般に天然変性ドメインは、単独では決まった構造を持たないが、結合相手によって異なった結合に固定されると考えられている。Grb2以外の分子間相互作用計測が重要である。Shcは精製できたが、その他の候補であるPLCgやPI3Kは巨大な分子であり、大腸菌での発現がうまくいかない。現在SF9を用いた発現・精製系を構築中である。 蛋白質の構造ダイナミクスを最終的に明らかにするには、原子座標の情報が得られる構造生物学手法や計算科学の力が必要になる。申請者の所属する理化学研究所内で研究グループを立ち上げることが計画されているが、領域内の研究者との連携も深めていきたい。
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Research Products
(7 results)