2012 Fiscal Year Annual Research Report
GPCRのシグナル伝達経路の分岐の仕組み:1分子観察法を用いた研究
Publicly Offered Research
Project Area | Spying minority in biological phenomena -Toward bridging dynamics between individual and ensemble processes- |
Project/Area Number |
24115511
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
笠井 倫志 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (20447949)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | Gタンパク質共役型受容体 / シグナル伝達 / 生物物理 / 1分子計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、三量体Gタンパク質共役型受容体、すなわちGPCR のシグナル経路群に注目し、経路が分岐する仕組みを、シグナル分子同士の相互作用を1分子レベルで直接観察して明らかにする事を目的とする。これは、1つのシグナル入力、すなわち1つの受容体に対して、2つの異なる下流のシグナル分子がリクルートしてくる様子を観察し、結合の順序を理解することとである。そのために3つの異なるシグナル分子を可視化する必要があるので、それらをラベルするための3つの異なる蛍光色素をそれぞれ同時に1分子ずつ観察する手法をまず開発・発展させる必要がある。そこで、3色同時蛍光1分子観察の際に、もっとも長波長側の観察に用いる色素として、光耐性と明るさの両方を十分に備えており、かつ、非特異的な吸着が少ないと思われる色素を調べ、蛍光1分子観察に適切な有機蛍光色素を選定した。この色素とGFP、TMRを用いることで、生細胞内で3色同時観察を行い、Arrestin、EBP50、アドレナリン受容体を1分子ずつ可視化することができた。観察の結果、アドレナリン受容体とArrestin、および、アドレナリン受容体とEBP50とが1分子レベルで相互作用する様子をとらえることができ、従来報告されていたようなシグナル分子複合体が確かに形成されていることが分かった。ただし、いずれの場合も、複合体形成は一過的で、シグナル分子複合体は動的に構成と解離を繰り返しているようであった。 また、従来のモデルとは異なり、アドレナリン受容体、Arrestin、EBP50の三者が細胞膜直下で一時的に複合体を形成するという、まったく新しい相互作用の様子が見られることも分かってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度の目的である、蛍光3色同時1分子観察に用いるラベル法の探索を実施し、以下のように、項目に分けて達成した項目を述べる。 3つの異なる蛍光色素を、それぞれ同時に1分子ずつ観察する手法をまず開発・発展させるために、細胞内分子をラベルすることができるタグタンパク質の探索、および、蛍光3色同時1分子観察に用いることができる、長波長有機蛍光色素の探索を行った。細胞内分子をラベルすることができる新規タグタンパク質として、候補をいくつか選定したが、実際に蛍光1分子観察に用いることができるものは新たに見つからなかったため、現在も探索を継続している。これは、主に、タグタンパク質を特異的にラベルする、有機蛍光色素の誘導体が細胞膜を透過しないことが問題であることが分かったため、色素の疎水性を調整することで、膜透過性を向上することができるかどうか検討する予定である。 また、3色同時観察に用いる長波長有機蛍光色素として、光安定性および抗光退色性が高く、かつ、非特異的な吸着が少ない、蛍光1分子蛍光観察に適切な蛍光色素を決定することができた。 次に、この色素と、GFP、およびTMRとの3色同時蛍光1分子観察を行うために、フィルタ、ミラーの選定を行い、実際に2種類の細胞内分子と、1種類の細胞膜上の受容体分子の同時ラベル、同時観察に用いることができることを確かめ、観察手法の確立は達成することができた。 また、蛍光3色同時1分子観察を行った画像を解析する方法、および解析理論についても、ほぼ確立しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず観察技術の向上を行う。現在行っている蛍光3色同時1分子観察では、用いる色素の一つとしてGFPを用いているが、この代わりに、細胞内分子を有機蛍光色素でラベルすることができる新規タグタンパク質の探索を引き続き進める。それは、GFPの蛍光1分子観察では、有機蛍光色素と比べてS/Nと寿命が劣っているために、見える現象が大きく制限されている恐れがあるからである。最近、細胞内分子をタグタンパク質でラベルする際に問題となっているのは、タグタンパク質を特異的にラベルする有機蛍光色素の誘導体が細胞膜を透過しないことにあることが具体的に分かってきたので、同じ新学術領域に所属する共同研究者と協力し、化合物の疎水性を調整することで、有機蛍光色素の誘導体の膜透過性の向上を図り、実際に蛍光3色同時1分子観察に適用することを目的とする。 これと同時に、蛍光3色同時1分子観察を引き続き進め、本研究で新たに発見した、アドレナリン受容体、Arrestin、EBP50の三者からなるシグナル分子複合体について、三種類の分子の相互作用時間を決定し、これらの分子複合体の動的性質をまず解明する。 さらに、異なるアゴニストでシグナルの強さを変えたり、アゴニストをパルス刺激で限られた時間の間だけ加えるなどして、3種分子からなるシグナル複合体の形成がどのような影響を受けるのかを調べ、外部のシグナル入力の変化に対して、シグナル分子複合体の応答の様子を観察し、生物学的な意義の解明を行う。 これと併せて、siRNAによる内在性タンパク質の発現抑制や、すでに入手したEBP50欠損細胞株などを用いて、シグナル経路の選択が起こらない実験系を作成したときに、唯一残されたシグナル経路に伝わるシグナル強度が変化するかどうかを調べ、シグナルの経路選択がシグナル増強、もしくは抑制に影響があるのかどうかについても明らかにしたい。
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Research Products
(7 results)