2012 Fiscal Year Annual Research Report
モデル生体膜の物質封入における1分子性の物理化学的基盤の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Spying minority in biological phenomena -Toward bridging dynamics between individual and ensemble processes- |
Project/Area Number |
24115514
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 宏明 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (20372427)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 細胞膜モデル / 分裂 / 分配 / DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞は細胞質成分を含む膜の袋であり、ゲノムに代表される内封少数物質がその細胞の表現型を決定する。真核細胞は、有糸分裂において高度な蛋白質の制御を駆使して娘細胞にゲノムを分配するが、原核細胞ではそのような機構がなくともゲノムが正しく分配される(Kleckner et al., PNAS, 2004)。細胞膜中に存在する巨大物質が細胞膜分裂に伴って均一に分配され、1個性を維持するメカニズムは蛋白質の働きにのみ帰せられるのだろうか。自己組織化の観点から、より基本的な物理的効果の寄与はあり得るのだろうか。 我々は、細胞膜モデルである脂質二重膜小胞(リポソーム)を用い、その成長(融合による膜面積増加)や分裂が物理的過程によって連続的に起こり得ることを示した(Terasawa et al., PNAS, 2012)。本研究ではこれを発展させ、リポソームの融合や分裂によってその膜構造が大きく変化する際に、少数内封物質の離散性がどのように変化し得るのかを実験的に検証する。リポソーム膜と内封物質の相互作用がなければ、リポソーム内の物質封入や分配はランダムであり、封入物質数はポアソン分布に従うはずである。一方、これらの物質間で物理的・化学的な相互作用が存在すれば、封入数はポアソン分布からはずれ、1個の物質のみを含む確率が増加する条件があり得ると予想さる。内封物質の排除体積効果等の物理的要因が封入物質の1個性に寄与し得るとの仮説の下に、その条件を詳細に検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は,概要に記載した計画に従い,ジャイアントリポソームが分裂する際に,内封したモデル物質が分配する様子を顕微鏡観察により検証した.モデル物質として,直径が1~3マイクロメートルのポリスチレンビーズを用いた.ジャイアントリポソームの分裂を駆動する力としては,リポソーム外部からの脂質分子を供給させた際に膜面積が増加し,かつ膜の曲率が増えて変形する,という現象を利用した.はじめに,直径数マイクロメートル~数十マクロメートル程度のジャイアントリポソームにポリスチレンビーズが数個含むという状況設定のための条件検討,および顕微鏡下でリポソームの分裂変形が起こる条件検討を行い,実験条件を確立した.次に,リポソーム変形のタイムラプス観察および多数の分裂変形後のスナップショットからの画像解析を用いて,内封ビーズが分裂変形後の娘ベシクルに分配される様子を統計的に調べた.結果を簡単に述べると,2個のビーズを含むベシクルが分裂変形を起こした際に,娘ベシクルとビーズの大きさの関係に依存して,内封ビーズが娘ベシクルに1:1に分配される確率が顕著に高まることを示した.これは,細胞の大きさと内封する物質の大きさに依存して,細胞分裂時にゲノム等の重要な巨大分子が均等に分配され得ることを示唆する.現在,ベシクルとビーズのサイズが分配確率に与える影響のモデルを考案し,実験結果との整合性を議論している段階である.
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は,細胞のゲノムや細胞内小器官のモデルとして簡単で扱いやすいポリスチレンビーズを用い,実験計画時に予想した結果を得た.25年度は,より生物学的に重要な分子として,巨大DNA分子の分配を検証する.具体的には,分子量が3x10^7Da(およそ50 kbp)のλファージDNAを用い,これをSYBR Green IIで染色したものを用いた.現在,蛍光共焦点顕微鏡によるジャイアントベシクルとλファージDNAの同時観察を行っている.λファージDNAにおいてもポリスチレンビーズと同様の傾向がみられれば,有糸分裂等の駆動タンパク質の制御がなくとも,1細胞1遺伝子性が起こり得る証拠となり得る.蛍光染色したDNAが一分子レベルで観察可能であることはすでに確認しており,現在,統計解析に必要な多数の画像データを取得している最中である. また,モデル細胞膜分裂時の内封分子の分配がランダム過程(ポアソンプロセス)より外れる現象について,その現象を定量的に説明する物理モデルを提案し,実験結果との整合性を検証する.単純なポアソンプロセスでは分配される物質そのものが持つ体積を考慮していない(無限小とみなす)が,その体積を考慮した際の分配確率を求める.物質の体積のみを考慮したモデルでの見積もりが実験結果と一致しなければ,適宜モデルを修正し,実際に起こっている物理過程を議論する.
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