2012 Fiscal Year Annual Research Report
発生分化過程におけるmicroRNAシステムの動作原理と制御機構
Publicly Offered Research
Project Area | Functional machinery for non-coding RNAs |
Project/Area Number |
24115711
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三嶋 雄一郎 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (00557069)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 核酸 / 発現制御 / 発生・分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
microRNA(以下miRNA)はmRNAに結合して翻訳抑制・mRNA分解・ポリA鎖短縮を引き起こす小型非コードRNAである。脊椎動物のゲノム中に存在する数百種類のmiRNA遺伝子は、タンパク質遺伝子の30~50%を直接制御することで、時期・組織特異的な遺伝子発現に大きく寄与している。しかしmiRNAによる転写後抑制の分子メカニズムに ついての研究は生化学的な解析に留まっており、その生理的側面は明らかになっていない。またmiRNAシステム 自身が受ける制御についての研究は緒に就いたばかりである。本課題では、生化学的手法を中心に解析されてきたmiRNAによる抑制メカニズムをゼブラフィッシュというin vivoモデル系において再展開し、その動作原理の 統合的な理解を目指すことを目的として研究を進めている。 本年度は、人工ヌクレアーゼTALENにより、miRNA経路のエフェクターとして機能すると考えられているTNRC6Aの遺伝子破壊を行った。その結果、TNRC6Aの接合子ホモ変異体は生存率、稔性、miRNA活性に大きな異常は見られないことがわかった。一方、母性ホモ/接合子ホモ変異胚(MZtnrc6a変異胚)は発生の軽微な遅延とmiRNA活性の減少が認められた。この結果はtnrc6が個体発生時にもmiRNA経路のエフェクターとして機能していることを支持すると同時に、tnrc6パラログ間で機能重複があることを意味している。そこで、他のパラログに対するTALENを作成し、tnrc6b1に関しては変異効率が50%を越える非常に活性の高いTALENを得ることができた。また、miRNAによるRNA分解に関わることが報告されているcnot7、cnot8およびPAN2に対するTALENを作成し、cnot7とcnot8に関しては活性のあるTALENが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はTALENによるゼブラフィッシュ変異体の作成方法の確立に重点を置いて研究を進めた。その結果、当初予定していたtnrc6a遺伝子の変異体作成に成功し、研究開始後1年でTNRC6Aを欠いた胚においてmiRNAによる抑制活性を解析できる段階にまで到達することができた。また他の遺伝子を標的としたTALENも活性が高いものが複数得られていることから、ゼブラフィッシュにおいて遺伝的な変異体による逆遺伝学的アプローチを行う基盤は整ったと言える。初年度に本研究の中核となるゼブラフィッシュ変異体の作成技術をほぼ独力で確立できたことは、今後の研究を進める上で大きな進展であると評価できる。 また作成したTNRC6A変異体の解析からは、培養細胞で報告されている「TNRC6はmiRNA経路のエフェクターである」という知見を個体レベルで支持する結果が得られた。このことから、主たる研究目的である「TNRC6の機能解明」が個体発生におけるmiRNA経路の理解に確かに貢献できる可能性が強く支持される。一方で、当初懸念されていたTNRC6パラログ間の機能重複が存在することも強く示唆された。この点に関しては、確立したTALEN法を用いて多重変異体を作成することで、次年度に対応が可能であると考える。 当初予定していたmiRNA経路の自己制御機構については、本年度は予備的な実験を行うに留まった。しかしながら、初年度にTALENなどの技術的な基盤の開発に十分な投資を行ったことで、次年度以降に研究を加速することが可能であると見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
ゼブラフィッシュTNRC6パラログの多重変異体の作成と解析 人工ヌクレアーゼTALENによりTNRC6Aの遺伝子破壊を行った結果、TNRC6Aの接合子ホモ変異体は生存率、稔性、miRNA活性に大きな異常は見られないことがわかった。一方、母性ホモ/接合子ホモ変異胚(MZtnrc6a変異胚)は発生の軽微な遅延とmiRNA活性の減少が認められた。この結果は、TNRC6Aの欠損だけではほかのTNRC6パラログが存在するためにmiRNA活性が完全には失われず、部分的な表現型に至っている可能性を示唆している。そこで本年度はTNRC6BとCの変異体の作成を行い、A、B、Cの多重変異体においてmiRNAの活性を検証する。 同時に、変異胚の発生異常を解析し、TNRC6レベルの低下が個体発生にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。 miRNAによる抑制現象に関わる因子の変異体の作成 これまでのin vitroでの知見から、miRNAによる抑制が明らかになっている。そこで、ポリA鎖を短縮する2つの酵素(CNOT7、PAN2)のゼブラフィッシュ変異体を作成し、miRNAの活性に及ぼす影響を解析する。また、ポリA鎖の短縮酵素に酵素活性欠損変異を導入し、これを過剰発現させることでもポリA鎖短縮酵素のmiRNA経路における機能の評価を試みる。こちらの解析においても、個体発生の観点からも表現型を解析し、miRNA経路におけるポリA鎖短縮の意義を明らかにすることを目指す。 以上のアプローチにより、均質な生化学実験系において解析されてきたmiRNA システムの基本動作原理を動的な in vivo環境において評価・検証する。
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